さよなら然様なら
日本の冬は暖かい。祖国に比べたそれは暖かくて、暖かくて、暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて暖かくて、何故だかとても空しい。窓の外にパラパラと降り続く雪を見ながら、少し笑って十分に寒いと言う目の前の彼は、この感情を一生理解しないのだろうと思う。理解しなくてそれでいい。そもそも僕たちには互いに理解し合えないことが多すぎた。それはこれからもそうで、時が解決してくれることなんて何もない。流した涙が乾いても積もった雪が融けてもわかり合えないことは一生わかり合えない。
僕はこの冬を忘れない。地球は回っている。冬が過ぎればここにはもっと暖かい春が来て桜が咲くという。それは凄く綺麗だと彼は言うけれどそんなものいっそ知りたくもない。ならもう、彼の冬と一緒に去ってしまおう。消えてしまうわけでもないし、理由はなくてもいつかまた必ず会う。祖国にも春は訪れる。望んでも望まなくても季節は巡る。
始まってなんていなかった。だから終わらない。いつからこんなところにいたのだろう。こんにちはとさようなら繰り返して、終わりがあることを幸福として、訪れないならそれは不幸だ。だけど僕はそのどちらでもない。
だから知らない。自分が抱く感情や欲望がいつか誰かを巻き込んだ時、彼はどんな顔をするのだろう。それでも他人事だと捨ておいて欲しい。そうしたらきっと、彼の喜びも苦も僕を少しだって揺るがすことはなくなるのに。ねえ、違う?
「ねえ、君は、どこからが嘘なの?」
「…さあ、貴方こそ、どこからが本当なのですか」
「そうだなあ、その問いについて君が仮説を立てているなら、それが正解なんじゃないかな」
「そうですか」
「そうそう、もうすぐ家に帰ろうと思うんだ。どう思う?」
「それはまた唐突ですね。雪も降っていますし、道中お気を付けて」
「そうだね、ありがとう。で?」
「あとは、そうですね……ああ、土産に茶はいかがですか。さっきからたくさん飲んでおられるようですし」
「…うん、そうだね、もらおうかな、たくさん。ねえ、本田くん」
「はい」
「寒いね」
「……ええ、とても」