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人形

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あなたがみてたのはきれいなわたし。

ベルベットのクッションを引いた宝石箱に並べられた、脆い宝石。純潔と無垢の結晶。潔癖なわたし、処女性の要求(needs)に応えるわたし。
飾り棚に並ぶオブジェよりも、必要性(needs)のないわたし。

あなたたちの家族ごっこの妹人形。



***


毛色の変わったDoll.
それが私と言う人形に与えられた最初の要求(needs)だった。
人外と言う才能(gift)を前提にした行為(guilty)。
ただの娼婦なら、容易く死んでしまうだろうほどの弑虐を兼ねた行為。それに応えるのが私に与えられた唯一の要求(needs)であり、生存意義であった。行為を代償に生かしてやっているのだ、と言うのが男達の共通した持論――……


Freak.それが私に対する評価。


それで良いと思っていた。否、それ以外に方法を知らなかった。恨めしいと思わなかった、何も。

僅かな食い扶持のためにfreakの娘を男達の好きにさせる父母のことも、私をいたぶることに快楽を覚える男達のことも、動物以下の劣悪な生活環境にも、餌と称されるごみ同然の食事も。

そう言うものだと思っていたから。私は父母や男達とは違う生き物なのだ、と言うことはあの頃の私にも解っていた。こう言うものなのだと思っていた。こうすることが普通なのだと。
私みたいなこう言う生き物は、こうされて、当然なのだろう。そう思っていた。だって、誰も教えてくれなかった。それがおかしいことだなんて、誰も言ってくれなかった。

ねえ、知ってる?血を流しすぎた時のあの浮遊感。酩酊感。そんな時に突っ込まれた時の、本当に繋ぎ止められてるんだ、って気持ち、感じたことある?


あの日、私はすごぉく、お腹が減ってた。両親がめんどくさがって、私の食事を抜いたんだ。一食なんてぬるいもんじゃない、…三日くらい。
そんな中、胸から臍下に掛けて、真っ直ぐ、ばさっと。黄ばんだダニだらけのシーツが私の血で真っ赤に染まった。これは本当に、死ぬなと思った。それで半ば意識をぶっ飛ばしかけてた私へ、男は遠慮なく突っ込んでそれから私を激しくゆさぶった。眠いのに寝かせてくれない、って感じだった。
私は止めなく血を流しながら、薄灯りの下霞む目で男を見上げた。生っ白い肌。たるんだ腹。鼻がでかくて目が小さくて、豚みたい――……きゅう、お腹が鳴った。

男は揺さぶりを止めると、朦朧としている私を見下ろして馬鹿笑いした。怒りなんて知らなかったから、ぽかんと男を見上げていた。

私はあの頃、あまり言葉がわからなかった。客との会話は親がする。私は親と客からされる、命令以外はほとんど耳にしたことがなかった。食え、とか、寝ろ、とか、脱げ、とか、舐めろ、とか、咥えろ、とか、入れろ、とかなんだとか――……


ふと、男が、私の前に指を突き出した。ソーセージのように白く太い指。
男は喉を鳴らして笑った。私は首を傾げた。いいの?男は頷いた。

男は冗談のつもりだったのだろう、他の娼婦だったなら、男の注文に答えて、指を甘噛みだとかしてみせたんだろうけど――……あの頃の私には、冗談など通じなかった。

から、食べた。男が悲鳴を上げて手を引っ込め、無意味に指先の虚空を見詰めて掌を開いたり閉じたりした。

初めて食べた人の肉と、血の味。それはこれまで食べた何よりも、……おいしかった。私はベッドから身を起こした。とうに、腹の傷はぴったりと塞がっていた。腹の虫が、まだまだ足りない、ときゅうう、と鳴いた。

私は舌なめずりをすると、茫然と手を見詰める男へ――……豚へ、踊りかかった。




Dutchから脱却して、私は獣になった。それから二人と出会って、人並みの―――何て言うと人じゃないだろってなるんだけど――まあ、人みたいなものになって、人並みの幸せを得た。幸せすぎるくらい。バルドとジギス。愛すべき同胞。異形の同胞。仲間。

幸せだった。幸せ、……だった。気付いてしまうまでは。何も変わってやしないんだと気付いてしまうまでは。人形は人形でしかないと、気付いてしまうまでは。
この人達は私に何も求めていない、と気付いてしまうまでは。


彼等が求めているのは、【妹と言うお人形さん】。【父と兄を慕う、可愛い妹のお人形さん】。
それ以外に、何も求めていない。私には何も求めていないのだと、気付いてしまった。

おとぎ話の中の家族のような、幸せな疑似家族。私に宛がわれた妹の役。ただその役を受け入れ微笑んでいる妹のお人形。ぎこちない学芸会。幸せな家庭を得ることのなかった二人の、しあわせの、追求。



あなたがわらいかけるのはわたしというおにんぎょう。
あやつりいとにからまったかわいそうなおにんぎょう。




あなたが見ているのは、綺麗な私。
見てくれだけの真っ赤な紅玉。純潔を石言葉に持つ紅玉。

あなたたちの家族ごっこの妹人形。




作品名:人形 作家名:みざき