死に逝く愛
なあ運び屋、俺がもし不老不死になれる酒というものを手に入れてた――と言ったらどうする?
何を馬鹿なことをだって?
まあ信じる信じないは自由だよ。どうでもいい。
……なんで今そんな事を言うのか?
不老不死を血眼で探してた新羅がいなくなった今、その事をわざわざ伝えてきた理由が知りたいかい?
それじゃあ教えてあげよう。特別に、タダで。
――ああ、俺は新羅がそれを必死で探してるのを知ってたよ。
情報を聞かれた事だって何度も何度もあったさ。
でも、俺は『俺が持っている』という情報を売らなかった!
なんでかって?
素敵で無敵な情報屋だって、ビジネスに私情を挟む事もある、って事さ。
――ねえ、運び屋。
俺はね、今地球上に無数にいる人間のたった一人も、化け物になんてやりたくないんだ。
それが首がない女に欲情する変態医者だとしてもね。
――おっと、怒るなよ。本当の事だろう?
――嫉妬? 恋?
……違うよ、これは愛だ。
俺は人間が好きだ。愛してる。その中に、新羅も含まれてたってだけさ。
アイツの方は親友だと思ってくれていたみたいだけど、俺は静雄以外の人間全てを『愛』していて、『親友』だと思ってる。
――アイツは、その中じゃ特別な方だった、と認めてやらなくはないけどね。
変態は変態同士結びつくのかもしれないなぁ……ああそれじゃあんたも変態になるのか、運び屋。
……って冗談だよ。はは、すごい顔だ。
――思えばアンタとも長い付き合いだな、運び屋。
顔がないのになんとなく表情が分かるようになった。
まあ、君は俺が知る人間たちよりも人間らしいところがあるから、かもしれないけどね。
だから俺は結構運び屋の事、気に言ってるんだよ?
――それでも、俺の人間達は渡さないけどね。
昔より大分皺の増えた顔に薄く笑みを浮かべる男をどうしようもなく馬鹿だと思いながら、私はPDAに文字を打ち込んだ。
『それで、依頼は何だ』
男は、顔と同じく皺の増えた手をゆっくり上げ、机の上に置かれた酒瓶を示した。
「アレ、新羅の墓にかけといて」
――奴は最期まで、『折原臨也』だった。