味見
関東とはいえ、平地よりも僅かに高所であるこの場所には、夏の終わりが存外はやくおとずれるようだ。
縁側に、浴衣を着た少年の脚が投げ出されている。無造作に転がっているそれに、男はゆっくりと手を伸ばした。
踵に手をかけて軽く持ち上げてみても、ぐっすりと眠っているらしい少年から、咎める声は上がらなかった。それをいいことに、男は小さな足をさらに持ち上げる。その甲に、まるでくちづけるように顔を寄せ。すん、と鼻を鳴らして汗と日なたの匂いを吸い込む。舌先を伸ばしてぺろりと舐めてみれば、微かに塩辛い味がした。
くちびるを離して、眠る少年の顔をちらりと覗き見る。規則正しく寝息をたてている様を目にして、動作を再開する。口を開いてかぷり、と軽く歯をたてた。少年の皮膚はやわく、男の歯はきわめて堅い。だから、食い破らぬように。慎重に―――
「静雄さん」
寝起きらしからぬ、はっきりとした声だった。名を呼ばれ、男はぴたりと動きを止める。
「……だめですよ。まだ」
やんわりと押し止める声に、男は素直に従った。柔肉の上に押し当てられていた牙をゆっくりと離す。痕にもなっていないそこを、慰撫するようにぺろりと舐める。
あとすこしがまんしてください
消え入るように呟いたあと、ふたたび聞こえてきたのは規則正しい寝息の音。
待て、と言われた犬のように、少年の言葉を聞き分けて足首を離す。
知らずこくりと鳴る咽が、どんな欲のせいなのか。男には最早わからなかった。