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【米英】0704

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※本家及びドラマCD版の誕生日ネタを元にしています。



 おめでとう、と彼は云った。けっして笑顔ではなかったけれど、確かにそのくちびるが祝福の言葉を述べた。
 二百回をとうに超えた俺の誕生日で、初めて。

「ではアメリカさん、皆さんがお待ちですよ」
 背後から掛けられた声に、俺ははっと我に返った。手にしていた包みを紙袋に戻して、声の主――日本へと振り返る。
「ああ、そうだね。大広間に行こうか!」
「そちらは今ご覧にならないんですか?」
 袋をプレゼント置き場へと持っていくと、彼は小首をかしげて云った。
 俺の家では通常、誕生日プレゼントはもらったその場で開けて中身を確認する。実際、これと一緒にもらったもうひとつは開封済みだ。未開封のそれをもう一度見つめてから、けれど俺はゆるりと首を振った。
「……うん、これは後で見るとするよ」
 どうせこの場にはもう贈り主の姿はない。
 それに、中身はきっと化学兵器にも勝るとも劣らないスコーンだとか、古くさくて役に立たないどころか今にも壊れそうなアンティークだとか、そんなところに決まってるんだ。そう零すと、何故か日本はふふっと彼特有の控えめな笑い声を漏らした。
「良かったですね」
 まるでずっと欲しかったゲームソフトを与えられた子どもに云うような慈愛のこもった口ぶりだった。お陰で俺はバカみたいにぽかんと口を開けてしまった。
「何がだい? 君、俺がこれをもらって喜んでると思ってるのかい?」
 まさか、というそぶりをしてみせても、ためらうことなく日本は頷いた。
「ええ。だってアメリカさん、さきほどから頬が緩んでいます」
「え、」
 思わず右手を頬に当てた。鏡がないから自分がどんな顔をしているのか良く分からないけれど、日本のことだから嘘は吐いていないだろう。くすくすと笑われて、手のひらに触れる頬が熱い。
「嫌だな日本、それは今日がめでたい日だからだぞ! こうして皆に集まってもらえて、祝ってもらえて、こんなに嬉しい日はないよ」
 あらぬ誤解を解こうと抗議口調で云うのに、彼はにこにこしたままだ。
「ええ、ええ。実にそうですね」
「……君、バカにしてないかい?」
「してませんとも」
 いつになく楽しそうな顔に、今度は頬をむうと膨らませてみるけれど、やっぱり効果はないようだ。日本はふと何かを悟ったように、俺に相槌を打った。
「一番はプレゼントじゃないんですよね。要は、気持ちがあれば」
「……」
 あれ、と思う。何だかかえって恥ずかしいことになっている気がしたからだ。だけど彼の云うことは、的を得ていた。
 紙袋に目を遣る。そう、そこに何が入っているかなんて、さほど重要じゃない。何だって良かった、たとえ最初に開けたびっくり箱が本当のプレゼントだったとしても。
「……二百年、掛かったんだ」
 気がつけば、ぽつり、と云っていた。
「どうせ今年も来てもらえないって思いながら、それでももしかしたらって、招待状を送ってさ。それが二百年も続いたんだぞ。信じられるかい?」
 静かに聞いていた日本は、穏やかな顔つきで、そうですか、と返す。
「それは本当に、良かったですね」
「…………うん」
 今度は、何がとは聞かずに俺はそう返事した。

(了)