たなごころ
互いに伸ばした指先が、互いの指先に触れる感覚。
焦らすようにゆっくりと、緩やかに絡ませた五本の指。
それから掌はぴったりと重なって、じんわりと、確実に、彼女の熱を俺に伝えた。
見知った女のどのそれよりも、白く、細く、華奢な手。
少し力を入れれば難なく折れてしまいそうなその儚さが、どうしようもなく愛しく、そして恐ろしかった。
(剥ぎ取ってしまおうか、その羽衣など)
「…カメ子、さん」
指先は絡めたまま、空いた左の腕でその体を引き寄せた。
宥めるように背中にまわされた腕の力。羽のような軽さは、けれど確かに生きているのだ。
(ああ、そのあたたかさよ、)
縋るように抱きしめて、顔を埋めた彼女の首筋からは、どこか自分を甘やかすような、やわらかな香りがした。
「…カメ子さん、カメ子さん」
大切で、愛しくて、守りたくて。
この気持ちを恋と呼ぶには、それはあまりにも簡単すぎるだろう。
(恋よりも、もっともっと神聖な、)
「カメ子さん……」
体中をめぐる感情を、どんな言葉に乗せていいのかわからずに、ただ絡めたままの指先に力を込めた。
たなごころ
(互いの熱はこんなにも素直に伝わるのに)