黄金の午後にはこんな話を
「アリス・リデルの話をしよう」
「未来の話か?」
「そうだ」
「聞かせてくれ」
「アリス・リデル。彼女は完璧な、理想の少女だった」
「『だった』?」
「大人になってしまったんだ。少女は時を経て、いつしか立派な一人の女性となった。ほら、おまえだってかつては少年で――」
「よく覚えていないよ」
「……ああ、そんな顔をするな、すまなかった……また昨日の話をしてしまったようだ」
「いや、いい。覚えていない私もいけないんだ。物心つく頃には天界へ喚ばれていたものだから……」
「あの頃のおまえは天使のようだったな、私よりもよっぽど」
「ちょ、ちょっと待てルシフェル、今なんて?」
「ん? 幼いイ―ノックは生みだされたばかりの天使のようだ、と言ったんだ。髪はやわらかな金糸で肌なんかは光に透けそうなほど白くて」
「う、嘘だ、だって私は人間だ! 天使はあなたじゃあないか!」
「おまえはものの例えというのを知らないのか?」
「知っていてもだ! 生まれ出でた瞬間から神に仕える身のあなたたちと私を一緒にしてはいけない! だって人間は!」
「人間が理由で堕天使が生まれたから? 人間が天使を地に堕としたと? ……天使も人間も大した違いはないのに。おまえはどうしてそう私たち天界の者を特別視したがるんだ?」
「だって――」
「……知恵がつくというのも考えものだな。ずっとあのままでいてもよかったのに。完璧な、理想の、天使」
「アリス・リデルの話をしよう」
「未来の話か?」
「ああ、そうだ」
「聞かせてくれ」
「アリス・リデルは完璧な少女だった、理想の少女像そのものだった――」
作品名:黄金の午後にはこんな話を 作家名:みしま