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なるほど恋はつらい

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恋ってつらいね。
あばただらけの青少年のような、あるいは恋に恋する女子高生のような発言に、まず先に飛び出してしまったのが口ではなく手であった。達海の、少々栄養不足気味な細い手はぱしりとジーノのトリートメントを欠かさぬ頭を叩いたのである。
「突然なにするんだい、タッツミー」
「叩きやすい位置にいるお前が悪い」
「それは悪かったね、ボクの監督さん」
問答無用で二発目がジーノの能天気極まりない頭に叩き込まれそうになるが、さすがにその気配を察していたのかジーノはあっさりと達海の右手を掴んだ。この調子では三発目を繰り出すのは難しいだろう。
ジーノは自分を叩こうとしていた手を、まるで宝物のように扱いやさしく包み込んだ。いつもと同じ態度と言えば態度だが、その時の達海は背筋に寒いものを感じてしまった。冒頭のジーノの発言のせいだろう。
そうして黙りこんでしまった恋人を横目で見つめる。いつもどおり長く上を向いたまつげは伏せられていて、くちびるは綺麗な弧を描いている。まるでうっとりと陶酔してしまっているような、否それの他言いようのない表情に、このおとこは一体どこをどうしてしまったんだろう。豆腐の角に頭をぶつけちまったのかもしれない。それか、達海の右手が大分重大なダメージを引き起こしたか。
ひとまずのところフットボールが出来れば問題ない。
そう結論付けながら、それでもやさしい手を伸ばしジーノの丸い後頭部を撫でてやった。達海のとはまったく違う毛質は触れていてなかなか気持ちのいいものだ。しばらくなんにも考えず撫で続けていれば、ふうと深い溜息をついてジーノがぽつりとこぼす。
「まるで飴と鞭じゃないか、タッツミー」
「そうかあ? ずっと殴られてるよりはいいだろうよ」
「そりゃあね。いやでも、毎日こんな風に優しくしてもらえば最高なんだけどね」
「俺は十分優しいと思うけどなー」
「君の優しさとボクの優しさの定義が違ってればきっとそうなんだろうね」
言葉には分かりやすい棘があった。ジーノは珍しく絡みたい気分らしい。二人はそうした言い争いにはとんと無縁なもんだから、達海はまじまじと彼を見つめてしまう。少なくともジーノの顔は凪いだ水面のように平静で怒りは感じられない。でも、だからこそなにを目的としているのか見当もつかなかった。そうした読み合いには聡いはずだが、今日はその勘もさっぱり働かない。動きようがないから動かない達海に呆れたのか、もう一度ジーノは分かりやすい溜息をつく。
「タッツミーって、ときどき何を考えているかひどく分かりにくい」
「よく言われるよ」
「だから、ボクの恋はとてもつらいんだ。知ってるかい、ボクが毎日君に嫌われないように如何に頑張っているか」
彼の言う頑張っているジーノを想像してみるが、それは形になろうともしなかった。どの場面においてもジーノが頑張っている姿を見たことがないからだ。うそだろと返せば、確かに毎日は嘘かもしれないねとあっさりとした答えが戻って来る。
「とにかく、たまにはボクの努力を認めねぎらって欲しい」
「たとえば」
「分かるだろう?」
全然分からん。知っているくせにそう答える達海に、半分だけ情熱的なラテンの血を持つ男はくちびるにくちびるを寄せた。
なるほど、確かに恋はつらいかもしれない。
こんな馬鹿らしい問答やら行為にも耐えねばならないのだから。しかし、それはなかなか悪くないことでもある。
そう一瞬思ったが、達海はおくびにも出さずぱしんと軽やかな動きで三発目をくりだし、それは見事に命中したのだ。

作品名:なるほど恋はつらい 作家名:マツモト