狂気
「クラウド、どうかしたのか?」
ソファーに上向きに寝転がっている俺を見て、セフィロスは尋ねてくる。
「好き」
「……返答になってない」
「大好き」
「クラウド?」
つま先当たりでソファーがきしむ。
セフィロスが腰を下ろしたのだろう。
「愛してる」
「知ってるさ」
「嘘つき」
「……一体、どうした?」
「知らないよ、セフィロスは。俺の想いなんて……」
今にも吐き出しそうなこの俺のあまりにもばかげた救いようのない想い。
「好きとか、大好き、愛してる、セフィロスだけ、セフィロスじゃなきゃだめ、それ以外にもいっぱい言った。そうしなければ、俺は……」
これ以上、伝える言葉が見つからなければ、この想いを言ってしまう。
言いたくなかったから、別の言葉を言い続けてきたのに。
「……前から言ってなかったか? お前の好きにすればいいのだ、と」
「……わかって……たのか……?」
身体を起こした俺に、セフィロスは軽くうなずいた。
「今すぐ、この俺をどうしたい?」
アナタヲ俺ダケノモノニシテ
アナタト二人ダケノ世界ヘ
「……セフィロスを……、あなたを……」
俺はそこで大きくかぶりを振った。
震える手でセフィロスの腕を掴む。
「……もし、俺が行動に出てしまうようなことがあったら……、その時は……」
「その時は?」
「セフィロスが俺を止めて……」
「……悪いが、それは無理な話だ」
「どうして!」
「俺がお前を止めたら、お前はどうなる? そしてこの俺は?」
俺は更に頭を振った。
「俺はどうなってもいい。行動に出てしまっているとしたら、俺はもう俺じゃない……」
アナタヲ独占スルタメニ
アナタヲ壊シテ
「それがクラウドの望みだろう? 俺はそれをクラウドの想いだとして受け止めるさ。それが結果的にクラウドの側にいられることになるのだとすれば、俺は幸せだ。クラウドのその想いがばかげているとしたら、今のこの俺の想いはさらにばかげてることになる」
「……俺の側にずっといて、俺だけを見て、俺の声だけを聞いて、俺だけに触れていて欲しかった。でも、この世界では無理な話だ……。だから、俺は……」
二人ダケノ世界へ
「俺はいつでもクラウドのもので、クラウドだけが俺を束縛できる。それをクラウドが感じることができないのであれば、行動に移せばいい。簡単なことだろう?」
セフィロスは笑顔を見せる。
そんな顔をされると、俺は何を言っても許される気になってしまう。それは俺の勝手な思い込みでしかないが、言ってしまったとしても、この人は動じないだろう。
俺は想いを深く沈めるために、瞳を閉じて、息を飲み込んだ。
「……今にも言い出しそうだから……、行動に移しちゃいそうだから……、その手で、その唇で……、セフィロス自身で、この俺を、この想いを封じて……。そして……」
俺はセフィロスにきつく抱きついた。
「……少しでいいから、二人だけの世界を感じさせて……」
「気が済むのか、それで?」
「……多分ね……」
セフィロスの唇が俺の唇を塞ぐ。
セフィロスの指先、舌の動きが俺を徐々に別の世界に導いていく。
深く貫かれて、全身でセフィロスを感じている。
そして、俺とセフィロスしかいないような世界。
ただ、この世界は一生続かない……。
だから、いつか、きっと、この俺が抱えたままの狂気のナイフがセフィロスを貫く日が来るだろう……。