来訪者
「「英雄」」
少年城主が指差した先を見て、古参の二人は見事にハモった。『だな』『だろ』と。
「それってひどくないですか!?」
目を吊り上げて怒る少年城主を前に、青い服の青年と熊男は揃って明後日の方を見る。
「あの人、僕がお願いした時は絶対に来てくれないって言ってましたよね」
「うん」とか「まあな」とかたまたまこの場に居合わせただけの二人は適当に答える。
いや実はかの英雄がこの城に来てすぐ再会の挨拶に酒を飲んだので事情は知っているのだが、少年城主の前では答えにくい。
「なのになんで居るんですか!? あの人」
興奮しすぎてぶんぶんと指差した腕を振る少年城主の声が届いたのか、城門の前で子ども達と遊んでいた棍を手にした少年が落ち着いた足取りで歩いて来た。
「なに騒いでんの」
見た目の割に落ち着いた佇まいの少年は自然に騒いでいる輪の中に入って来た。
目の前に来られると、少年城主の関心もそちらに移る。恨みがましく上目使いで見上げ、旅慣れた格好の少年に強く訴えた。
「僕が来てくださいってお願いした時は断ったのに、なんでここにいるんですか」
問い詰めるような声の調子も泣く寸前のように顰められた顔も恨みがましさでいっぱいだ。そんな相手に、年上の少年は気負った様子でもなくへろりと答えた。
「遊びに来いって言ったのは君だろ。協力する気はないけど、たまになら遊んであげてもいいかな、と思ったんだ」
昔馴染みもいるしね、と少年城主の様子など一顧だにせず爽やかに答える少年の前で、少年城主は、うぅぅぅぅとうめき声をあげた。
「あ、遊ぶつもりならっ、」
少年城主が一際声を荒げる。
「今度から真っ先に僕のところに来て下さい!!!!!!」
こぶしを握り締めて真剣に訴えかける少年城主を見下ろして、少年は思わずといった感じで笑ってしまった。
「いいよ。約束してあげる」