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IとMの法則

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俺が一歩近づくと、帝人くんは一歩離れる。

そんな、俺たちの法則。


帝人くんが好きなのだと気が付いた時の衝撃を、今でもなんて言いあらわしたらいいのか俺にはわからない。
アニメでよくある雷に打たれてスケルトンになるような、あんな感じ。
ああ、そっか俺、帝人くんのこと好きだったんだ。
だから帝人くんを見ると喉がカラカラに乾いて手に嫌な汗をかいて、俺の口が勝手に話し始めるんだ。
嘘八百でペラペラと動く俺の唇が紡ぐ言葉がいつも適当だったことに、帝人くんは気が付かない。
なかなか動揺を見せないポーカーフェイスがお得意な自分がこの時ばかりは嫌になる。

俺が言葉にしなくてもこの思いが伝わってしまえばいいのに!何度もそう思った。

もしも俺の中に『理性の糸』というのがあったのなら、プチンと切れたのはあのときだ。

「臨也さんに愛される人は羨ましいですね。」

その言葉がどんな会話の中で出てきたのかはもう思い出せない。
いつものように適当に言葉を並べて帝人くんの興味を少しでも自分に向けて貰おうと必死だったから。
ただそう言った帝人くんの頬笑みが妙に綺麗で俺は思わず閉口した。
「あ、別に厭味じゃないですよ。本音ですから。」
話すのを止めた俺に少し慌てて帝人くんが続ける。
けど、もうそんなのはどうでもいい。厭味だろうがお世辞だろうが構いやしない。

羨ましいと思うのならきっと俺を受け入れてくれるはずだ。

今、落ち着いて考えればそんなのは厭味でもお世辞でもなく、ただの社交辞令だったことはわかる。
でもそのときの俺には余裕なんてこれっぽっちも無かった。

俺が部屋に誘うと俺のMAXになった緊張感とは裏腹に帝人くんは無邪気に「お邪魔して良いんですか?」と笑った。
むしろ、「え?本当に俺の部屋に来ちゃうわけ?」と、俺のほうが心配になる。
それは俺だからOKしたわけ?それとも誰に誘われてもホイホイ付いていくような尻軽だったの、帝人くんてば。
一抹の不安を抱えつつも俺はいつもの軽薄な笑みを浮かべ「どーぞどーぞ。」と笑う。
このときの俺の頭の中を覗けたら、きっと帝人くんは俺の部屋に入ろうだなんて思わないだろう。

りんごジュースを差し出す、もしこれで飲まなかったら別の飲み物はじゅうぶんにストックしてある。
薬はほんの少し苦みを残すかもしれない、違和感に気づかれたら「えー?本当に、賞味期限過ぎてんのかな?」と言って自分のコップに口付けよう。
そうして、次はコーラに薬を入れようか、あれなら苦みを感じにくい。
なんて、いろいろ画策する俺の心配は杞憂に終わった。

帝人くんはうとうとし始めて、そしてついに眠りに落ちた。

ベッドへ運ぶ時抱き寄せたその躯の細さに愕然とした。
こんなんで大丈夫かな、壊れたりしないかな。
持ち上げてさらにビックリ、俺が急に力持ちになったわけじゃないよね。こんなに軽いなんて、・・・羽根でも生えてるのかい、帝人くん。
心臓はもうすでにとっくに限界を超えていた。
帝人くんの腕をベッドに縛り付けて、暴れたらこの細い腕に赤く跡が残るのかと思うと俺の良心も痛む。

けれどそれ以上に帝人くんが欲しかった。

始めから正攻法で上手くいくなんて思ってない。
だって今回こんなにアッサリ全てが上手く言ったのも、帝人くんが俺のことをなんとも思ってないから。
信用されている、なんてポジティブには思えない。信用されるほど帝人くんとはかかわってないんだから。

泣かれるかな、怒鳴られるかな、悲鳴をあげて、俺を拒否するだろう。
それでも、俺は、

帝人くんが欲しくてしょうがない。

まるでデパートで玩具を欲して駄々こねる幼子のような気持ちで俺は帝人くんを見つめた。



でも、結局駄目だったんだ。
帝人くんが目を覚ませば、俺は何も出来なくなった。
あの黒い瞳で見られると、悪いことが出来なくなる。
何より嫌われたくないという思いが強くなった。
駄目だなぁ、あんなに決意してたのに。

どうしたら、帝人くんは俺を好きになってくれるの?

「交換日記から始めませんか?」

だから彼の提案は俺には瓢箪から駒みたいなものだった…あ、いや違うな。目からうろこ?二階から目薬?

なにはともあれ、その瞬間を俺は後にこう呼ぶ。
『女神は我に微笑んだ!』と。

首の皮一枚で繋がった。
嫌われても仕方がないと、そう思いながら嫌わないでと願う俺に帝人くんは苦笑する。
「とりあえずステップ1から行きましょう。」

そして今日も俺は交換日記に帝人くんへの愛の言葉を書く。
前回は帝人くんのことを『愛しのシンデレラへ』と表現したら『僕は女ではありません。』という冷たい言葉で帰ってきたので、今日はなんて書こうか。

「親愛なる麗しの君へ」
小鳥の囀りのような声、黒真珠のような瞳、果実のような唇、雪の上の牡丹のような頬、
その全てを兼ね備えた人。

こんな風に書けば「キザすぎます。」と、また一言で返信されてくるんだろうね。
わかってるさ、でもそれで良いんだ。

帝人くん、情に流されると言う言葉を知っているかい?
馬鹿にされようが呆れられようがヒかれようが、とりあえず押して押して押しまくる。
引くタイミングが分からないだけじゃないのかと言われれば、まぁそうでもあるんだけど。

どうか早く俺に絆されてよ、ねぇ。


俺が一歩近づけば、帝人くんは一歩離れる。

今はまだそんな関係で我慢してあげるよ。
・・・でも俺の一歩ってかなり大股なんでヨロシクね。


そんな、俺たちの法則。
作品名:IとMの法則 作家名:阿古屋珠