二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

夕立の匂い

INDEX|1ページ/1ページ|

 
開け放った窓からぬるい風が入ってきて、白いカーテンがゆっくりと膨らんでいる。
夏休みに入ったのに、夏期講習という名目で今週は生徒全員が学校に来ていた。
今日はその講習も午前で終わり、昼過ぎには冷房の切れた学校に残る生徒もまばらだった。
しかしうだるような暑さの中、教室の隅で一心にマンガを読みふける金髪の生徒がいた。
かいた汗のせいでひたいに張りつく髪にも構わず、彼は真剣にページをめくっている。
その眼に涙を浮かべ、時々鼻をすすりながら。
彼の机には借り物らしいマンガが何冊も積んであった。
蝉の声もグラウンドの運動部の掛け声も遠く、ページをめくる音だけが教室に残る。
そこへ突然、ガラガラと勢いよく戸をあける音が響いた。
「あっれーシズちゃんじゃない。まだ帰ってなかったんだ。…何読んでるの?」
臨也がわざとらしい高い声で教室に顔を出した。
「…うるせー」
静雄はマンガから目を離すことなく臨也を一蹴する。
そんな静雄の態度など気にせずに臨也は静雄の前の席に座った。
「…シズちゃん、泣いてる?」
「うっせー泣いてねーし!どっかいけ!!」
「シズちゃんが泣いてるとこ初めて見たー!めっずらしー…はいどうぞ」
臨也は静雄をからかいながらも持っていたハンカチを差し出した。
「…お、おう」
素直にハンカチを受け取る静雄に若干動揺しつつ、臨也も机の上に重なるマンガに手を伸ばした。
「あーONE PIECEね。今何巻読んでるの?」
「…………」
臨也は首を傾げて静雄が読んでいる本の表紙を覗いた。
「50巻か。うん、泣くのもわかる」
「…………」
静雄は臨也の事は完全に忘れたようだ。再び鼻をすすっている。
手持無沙汰になった臨也は机にあった別の巻をぱらぱらと読みだした。
流し読むように大雑把にページをめくっていた手の動きが段々と緩慢になり、臨也も真剣に読み始めてしまった。
暫くして静雄が50巻を読み終わると、握りしめたハンカチで目もとを拭って顔を上げ、小さくため息をついた。
そして、目の前で自分と同じようにマンガを読みながら泣いている臨也に気付く。
「おい…お前もしかして」
「うっさいな!泣いてないから!!」
「お前も一応人の子なんだな…ほら」
静雄はティッシュを臨也に差し出した。
「あ…うん」
臨也はマンガから目を離さずにそれを受け取る。
静雄はその横顔を、興味深そうな、あるいはつまらなそうな、何とも言えない表情で見つめていた。
頬杖をついてその視線を窓の外に移す。
入道雲が青い空にはっきり輪郭を描いている。今日は夕立が来るかもしれない。
何分もしないうちに臨也も読んでいた巻を閉じ、顔を上げた。手に丸めたティッシュを握っている。
静雄は、ゆっくりと形を変えていく入道雲を見つめている。
「…………いいよな、ワンピ」
窓に視線をやったまま、半分ひとり言のように呟いた。
「うん」
「……帰るか」
静雄は机の上のマンガを鞄にしまって、帰る準備を始めた。
「……ねえねえシズちゃん、俺もうちょっとその続き読みたいんだけど」
「じゃあ買えよ」
「えー俺ジャンプ派なんだよ」
「既に一回読んでるんじゃねーか」
静雄はさっさと席を立つ。臨也はぐずぐずと居座っている。
「今読んでた巻の次の巻だけでもいいからさー」
「これ門田に借りてんだよ。んなに気になるなら俺が返してから門田に借りればいいだろ!俺は帰ってから続きを読む!」
椅子を整えて静雄は教室を出ようとした。
「えー俺は今すぐ読みたいのー。ねえサイゼ行こうよー俺がおごるからさ」
臨也は静雄の袖をひいてダダをこねた。
「いかねぇ俺は帰る」
「えーじゃあ俺もシズちゃん家行っていい?」
「…仕方ねーな読んだらすぐ帰れよ」
「えっ家ならいいの?」
「あぁ、今日親帰るの遅いし」
ぶっきらぼうに返す静雄の横顔に、目を丸くして臨也が問いかける。
「サイゼはだめなのに?」
「雨、降りそうだからよ」
静雄はさっさと教室を出ていく。臨也はあわててそれを追った。
「雨?」
「夕立。なんかにおう」
ばたばたと二人が出て行った教室は急に静かになった。
遠くから蝉の声と、夕立の気配がにじり寄る。暑い夏の午後。
「なージャンプって今どこまで進んでんだ?あ、ネタバレしたら殺す」
「シズちゃんそれ無理難題」
廊下に二人の声が響いた。

作品名:夕立の匂い 作家名:みぞれ