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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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True or Fauls

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「ぼくはね、法廷が好きなんだ」



 あ、そうですか。














 True or Fauls
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 きっかけは、ささいなこと。

 というか恐らく、どこまでも闊達に振舞う芸能検事にとって、きっかけなんてものは必ずしも要るものではないのだろう。

 聞いても理解できない理由なんていうものは、他者にとっては「意味がない」のと同じことだ。

 だから王泥喜は早々に牙琉響也の行動の理由やら基準やらについて考えることは放棄している。


 このときも、そう。どんなことがきっかけだったのかは知らないが、唐突にそんなことを言い出した響也に、一拍も置かずに興味のカケラとてない言葉を返していた。



「ね。何でだと思う?」



 ところが、世の中にはめげない人間というのがいるものだ。

 どれだけ気のない返答をしたところで、無理やりにでも会話をつなげようとする。というか、それが無理やりであるという意識も、やはり無いのかもしれない。



「知りませんよ。そんなこと」

「じゃ、考えて」

「何でオレがそんなことしなくちゃいけないんですか」

「ぼくがしてほしいから」

「お断りします」

「オデコくんが冷たいー……」

「キモチワルイんですけど」

「いいじゃない、考えるくらいしてくれたって」

「無駄なことはしない主義なんです」

「なに、無駄って」

「検事の考えてることなんて、理解できるはずがないです」

「……それはまたバッサリだね」



 考えてみれば(いや、改めて考えなくても)けっこう酷いことを言っているはずなのだが、響也はやはりめげない。


 ひょい、と軽い仕草で肩をすくめて、頭ひとつぶん低い王泥喜の顔を覗き込む。

 青い色をした瞳が探るように細められて、少しばかり居心地が悪かった。



「でも、それって。どっちかっていうと、ぼくのセリフなんだけどな」

「は?」



 やがて出てきた思いもかけない言葉で見開いた目に、響也はどこか満足そうに笑う。



「オデコくん。キミは、ひどく読みにくいよね。そう……法廷、以外だと」

「―――」

「理解できない、というのとは少し違うかな。そもそも、わからないんだ。キミが何を考えているのか。何を思っているのか。どんなことを喜んでくれて、どんなことを嫌がるのか。少しもわからない。だから、理解したくてもできないし、理解しようと努力することすら、許されない」



 ひどく曖昧な笑い顔。そう思って、王泥喜は、そう言えるくらいには響也の表情を知っていることに気づく。


 そして、心の中だけでつぶやく。だって。彼は、とてもわかりやすい。

 いや、行動理念はまったくもって埒外だが、それでも、たった今何を考えているのか、そんなことは、丸わかり、というほどにわかりやすい。


 ああ、だから、どうだと言うのだろう。

 王泥喜には響也の表情はわかりやすいのに、響也には王泥喜の表情がわかりにくいのが、不公平だとでも?


 話の帰着点が見えず、王泥喜は少し困った。



「そんなこと、オレに言われても困ります」

「うん。別にそのことに文句を言うわけじゃないんだよ。それだってキミの個性なんだし……ただ、何と言うかね。わかっておいてほしいんだ」

「……何を」

「ぼくが法廷を好きな理由」



 瞳の青が、色を濃くする。

 本気なのだ、と明け透けに伝えるその変化に、見入ってしまう。


 けれど。



「ふだんのキミは、何も伝えようとしてくれないよね。信じられないくらいにクールで、ドライだ。でも、法廷でのキミは、とても熱くて、素直で―――わかりやすい。だからね、オデコくん。キミが何を考えて、どんなことを感じて、そんなことがぼくにもよくわかるから、ぼくは、法廷が好きなんだ」



 語り聞かせるような言葉を真面目に聞き、視線を合わせる響也を見返して……王泥喜は。

 魅入る青い瞳を跳ね返すように、黒い目をきゅっと細めた。


 それはまるで法廷のようにわかりやすい、そのくせ法廷では1度も見せたことのない、恐らくはこれからも見せることのないだろう、王泥喜の表情。

 笑っているような、怒っているような、楽しんでいるような。


 読みきれない感情と、少しばかりの、余裕。



「つまり検事は、弱気なんですね」

「……何だって?」

「法廷以外では、読み取る努力を放棄するつもりですか」

「バカな!」

「じゃ、今までの会話は時間の無駄じゃないですか」

「オデコくん」

「言っておきますけどね、牙琉検事」



 言葉につなげるように浮かべた、自信にあふれた笑顔。

 響也の意識も言葉も奪うような見慣れぬ顔ではなく、見たことがあるどころではない、不敵な表情。

 思わず脳内で再生してしまったお決まりの文句をしかし現実には言うことなく、王泥喜はぴしりと響也の鼻先に指をつきつけた。



「オレは、真実を求めるのに弱音を吐くような人間は、好きじゃないです」



 それは響也が好きだと言った法廷と同じ顔で、同じ声で、同じ仕草で。

 ためらいも揺るぎもなく、王泥喜はきっぱりと言い切った。


 真実を求めるのは弁護士と検事の共通の目的。

 真実を見い出すための、法廷に立つための姿。


 そのことに気づいて、響也もまた、新人弁護士を目の前にした検事としての、余裕に満ちた態度で背筋を伸ばす。



 今さら言う必要もないようなその台詞の意味は、つまり。








「本当に知りたいなら、見分けてください。何がほんとうなのか」

「望むところだよ、オデコくん」










 二者択一の、挑戦状。



作品名:True or Fauls 作家名:物体もじ。