図書室で
『 図書室で 』 学パロ
「ちょっと静雄、勉強するんじゃなかったっけ!?」
「んぁ? ・・・・・・いーんだよ、大学行かねーし」
「静雄、卒業するために試験勉強はしねぇと」
「あ、そっか」
「っていうか、この勉強会静雄のために開いてるんだけど」
「本来の目的を忘れて寝てたな」
「・・・・・・ノートに涎ついた」
「・・・・・・拭いとけよ」
図書室では静かに、が当たり前だが図書室に並ぶ机の一区画では賑やかに、しかし気をつかってか小さめの声で会話が弾んでいた。
近々試験のため平和島静雄、岸谷新羅、門田京平の三人は図書室で勉強会を開催していた。
新羅は父親の影響もあってか化学や理科系の教科は得意で、他の教科も平均よりは上を取る。門田も新羅ほどずば抜けてまでは勉強自体は得意ではないが、普段から平均点より少し上ぐらいの点数を取っている。現代文は得意教科。
「ここ・・・・・なんでこうなるんだ」
「数学、か。えっとな・・・・・・ここでこの定理を使ってだな・・・・・・こうなるだろ?」
「おぉ。なんとなく分かった」
「僕、早く帰ってセルティとイチャイチャしたいんだけど」
「黙ってろ新羅」
「・・・・・・俺、一応静雄のために残ってるんだけどな」
その言い方は何、と小さく困り顔で呟く新羅。彼にとって最愛の思い人であるセルティとの二人きりの時間は他のどの時間よりも重要なのは言うまでも無い。学校に行くことも憚られるほど彼女と二人きりの時間を求めるが、その彼女が学校にはちゃんと行けというので仕方なく学校に通っていると言っても過言ではないだろう。
新羅は彼女の姿を頭に思い浮かべて名前を小さく呟き、一人妄想の世界へ旅立っていった。
ガラと音を立てて出入り口の扉が開く。一人の生徒が数冊の本を携えて図書室に入ってきた。
――――――来た
門田は頭の中で小さく呟いて、静雄に勉強を教える合間にちらりと彼女の様子を窺う。彼女は一年生ながら足繁く図書室に通う今時珍しい女子生徒だ、と門田は認識している。
現代っ子は、みんなが全てそうというわけではないが、本を読むことを好まない人が多い。この学校も本好きの奴は少なからず存在するが、それでも少ないと思う。
そんな情勢の中、頻繁に図書室に訪れる彼女の顔は既に覚えてしまっていた。
「門田・・・・・・?」
「あ、あぁ。すまねぇな」
彼女へ向けていた視線を静雄に戻し、再び見慣れた教科書に目を落とす。
静雄と門田が勉強している様子を新羅は眺める。そのまま自然な動作で体の上半身を回転させ本の返却カウンター辺りに視線を向けた。
――――――門田が見てたのは・・・・・・あの子?
新羅は少し意外、と門田をチラっと見て再び女子生徒を見る。今の門田の様子から恋愛的なものは感じられないけど、好意みたいなのは少し感じるからきっとコレは最終的にそういうものに繋がるかもしれないなぁ、と一人で悶々と考える。
そういえば、今入ってきた女子生徒が着てたのはセーラー服だけどセルティがセーラー服着たら世界で一番、いや全宇宙の生あるものの中で似合うんだろうなぁと思わず妄想が膨らみ思わず顔がニヤけてしまう。
「・・・・・・なにニヤついてんだ?岸谷」
「いやぁー、今一人生徒が入って来たでしょ?」
「あぁ」
「そうなのか?」
どいつだ、と静雄はきょろきょろと辺りを見回す。
「ほら、今カウンターから本もらってこっち歩いてくる子!」
新羅は相手に分からない程度で指差しながら静雄に話題の生徒を教える。
「で、それがさっきのニヤついた顔と何が関係あるんだ?」
「ほら、その子セーラー着てるでしょ?」
「おぉ」
「セルティが着たら宇宙で一番似合うんだろうな、って考えるともう僕の世界は広がって広がって・・・・・・!留まるところを知らないよ!」
と新羅は再びニヤけ顔で頬に両手をあて体をくねらせながら嬉しそうに答える。
静雄は名前の通りただ静かに新羅を無表情で見つめ、門田は哀れむような目で静雄の視界に移る人物を見た。新羅は変わらず一人楽しそうである。
話題の女子生徒は門田達の使う机の一つ向こうの机と机の間を通って本棚の森へ入っていった。
「よく本なんか読もうと思うよな。俺、もう人生でこんぐらいの本読むことねぇと思うわ」
「・・・・・・本は読むべきだぞ、静雄」
と言いながら静雄は人差し指と親指で隙間を作る。高校で使う教科書ほどの厚みしかなく、こうやって現代っ子の読書離れは進んでいくんだな、と門田は先程まで考えていた社会現象を間近で目の当たりにする。これは由々しき問題である。
「で、静雄。ここ分かんねぇんだろ」
「おぉ」
「俺もこっから分かんねぇからよ、岸谷。こっから教えてくれねーか」
「はいはい。どの辺りー・・・・・・」
新羅は二人に勉強を教えながら先程確かめた事実が自分の予想通りであったことに少し驚く。
――――――今一人生徒が入って来たでしょ?
――――――あぁ
「やっぱり見てたんだね、門田」
「は?」
「どこだ!? どこの解説やってんだ!? 今!」
「あ、ごめん独り言だよ。静雄、そんなに慌てなくていいからっ」
少なからずそういう可能性はあるらしい。彼自身が気付いてるのかどうか知らないけど、と新羅は頭を悩ませる二人に勉強を教えながら頭の隅でこっそり考える。
――――――あんな曖昧な質問に即答で返せるなんて何か感じざるを得ないしね
ついに頭の許容量を超えたのか静雄はああ、と地響きのような声を上げながら自分の隣に座っている門田と反対側の空いている席の椅子を掴みノートに向かって叩きつけようとする。
新羅は静雄がその行動を起こす三秒前には既に机から少し離れた場所に避難しており、静雄の真横に居る門田は静雄にこれ以上図書室の物を壊させないためにも必死に静雄を宥めようとする。
そして何とか今日の分の試験勉強を終えて帰路につく三人であった。
数十分前 図書室の扉
「あーここにいた。シズちゃん達・・・・・」
一人、臨也はドアからこっそり覗いていた。
勉強する三人に近づいて邪魔をし、キレた静雄によって窓に飛ばされるまですぐ。
臨也は家に辿り着くとしばらくの間ソファの上で拗ねていた。