退屈な生か愉悦の死か
劣悪な環境、乾ききった風景の中、美しい青年が一人――名を綾瀬川弓親という。
目の前で繰り広げられる闘いを、些か詰まらなさそうに眺めている。
チンピラの集団に囲まれているのはその親友――斑目一角。
彼は彼で、不服そうに舌打ちをした。
「弱ェ、弱ェ……! もっと愉しませてくれる奴ァいねェのかよ!」
そう叫ぶ一角の刃は一瞬にして周囲の男たちを薙ぎ払う。
斃された男たちの仲間は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「詰まらねェな」
「だから言ってるじゃない。この辺りで君に敵う奴なんていないって」
ぼやく一角に、弓親が声を掛けた。
一角はフンと鼻を鳴らし、血震いした刀を鞘に収める。
そうして二人が連れ立って去ろうとしたときだった。
彼らの背後で断末魔の悲鳴が上がる。同時に血飛沫が舞った。
「しぶといのは美しくないよ」
刃を一閃させたのは、先程黙って見ていた弓親のほうだった。
死に損なった男の一人が、最期の力を振り絞って彼らに斬り掛かろうとしていた。
それを弓親が、背後に目線をやることなく斬り払ったのだ。
「どっちかっつったら、お前と闘るほうが愉しいンだろうな」
一角が呆れとも感心ともつかぬ溜息混じりに言うのに、弓親は笑って首を振る。
「遠慮しとくよ。まだ死にたくないからね」
――勿論、途轍もなく愉しいんだろうけど。
作品名:退屈な生か愉悦の死か 作家名:うに