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いつか来る、その日の前に

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はじめて貴方の口から零れた俺の名は
恐怖が目立った声でした。




「獄寺くん」

「はい、なんですか十代目」

あれから時が経ち、貴方が俺を呼ぶ声はずっとずっと柔らかくなった。
柔らかく、甘やかで。このまま何度でも呼ばれたくなるような心地良い声。

「…なんだか機嫌がいいんだね」

"俺の事、どうでもいいんだ"なんて、可愛らしく拗ねる方の瞼にキスを。
ちゅ、と音を立てながら 頬に、耳に、首筋に唇を落としていく。

「――――獄寺くん」

ああ、またこの声だ。
俺はこの声を聞くだけで、幸せになる事が出来る。

「はい」

「明日は、何の日?」

「十代目の結婚式です」

最後に軽く、唇に触れる。
ほんの一瞬。ただそれだけのキスは物足りない。

同じ事を思ったようで、貴方の手が俺の肩に回される。

「足りないよ、獄寺くん」

「―――はい」

声と同じくらいにキスは甘くて、この甘さだけに酔いしれたくなる。
蕩けた瞳で俺を見る貴方は、とうに酔ってしまったのかもしれないけれど。

貴方を守る俺は、貴方より深く酔う訳にはいかないのです。


「―――――――でらくん、」

「はい」

「俺の事、好き?」

「はい。世界で一番、愛してます」

嘘偽りのない言葉を、貴方へ。

「じゃあ、もう一度聞くよ?」

「…はい、十代目」

「明日は、何の日?」

「………十代目の、「俺の?」

「結婚式、です」

ボンゴレが、さらなる繁栄を迎える為に。
リボーンさんが選んだ、完璧な花嫁との結婚式。

何度も、何度もカレンダーの日を数えた。今更、間違えるわけがない。


「…君は、それでいいの?」

「十代目」

「なに?」

「名前を呼んで下さい」

俺の言葉に、十代目はぱちりと目を見開く。
大きな瞳は星のようで、見張っていなければ空へ返ってしまいそうだ。

「…ごくでらくん」

「はい」

「獄寺くん、獄寺くん、獄寺くん」

「…はい、十代目」

貴方が俺を呼ぶだけで、簡単に幸せになれるんです。
笑ってみせれば、貴方はつらそうに眉をしかめる。ああ、十代目、すみません。でも俺は選んでいるんです。もう、ずっと昔から。

「俺は…、結婚なんかしない。だって俺には君が居るんだ!」

「………」

「君は平気なの?俺が、俺が…他の人と結婚する事が!!」

涙を浮かべた貴方に、手を伸ばす事は叶わなかった。
貴方の全身がこう言っている"覚悟もないのに、自分に触れるな"と。

「貴方の結婚が決まった時から、いいえ それより前から、俺は何度も同じ夢を見ました」

「…………?」

「決まって毎夜カレンダーの日を消していき、前日にはやはりこうして貴方にキスをするのです。困った事に、俺は会話の節々に貴方に名を呼ばれるだけで幸せになれます。散々嫉妬に狂いそうになった心でさえ、貴方の声が簡単に掬いあげて下さるのです」

「―――獄寺くん」

「十代目は、俺の全てです。貴方に忠誠を誓った時から、わずかの揺らぎも存在しません。貴方が存在して下さるだけで俺は救われる――そう自分に言い聞かせ貴方の手を放す夢もありました。その結末でも、俺は貴方の右腕として、貴方は新しい家族を得て幸せを得る事が出来ました…実際、出来るんだと思います」

静かに涙を流す、愛しい人を抱きしめる。

「だから、本当のこの時には、俺から言います。結婚なんか、しないで下さい。そう、我儘を言ってもいいですか?…沢田さん」

「―――っ、」

夢の世界の十代目は、何も言わずに消えていく。
そうだ、これも、俺の夢だ。今貰う言葉は、全て俺の都合の良いように構成されてしまう。


本当の十代目が、なんと仰るのか、それだけが知りたかった。















「――――くでらくん、獄寺くん」

目を開けると、そこにはこちらを覗き込んでくる十代目の顔があった。
眠そうだけれど、どこか面白そうな貴方の顔。

「おはようございます…」

「あれ?寝ぼけてるの?珍しいなぁ…ね、今日は俺がご飯作ろうか」

ご飯…?ん、さっきまで結婚がどうとか言って無かったか?
てゆーか、どうしてこの人が俺の部屋…え、なんかエプロン付けてらっしゃる??

「わぁぁぁ!ダメです!自分がやりますから、十代目はゆっくりなさっていてください!」

一瞬で目が覚めた。
そうだ、昨日は…十代目が宿題をやりに俺の部屋に泊まりに来て…まぁ、…うん、あれだ。ダメだ、いつまで経ってもニヤけが止まる日が来そうにない。

「俺だって目玉焼きくらいは作れ…獄寺くん、なんか悲しい夢みたの?」

「へっ?何でですか?」

「目、赤くなってる」

目をこすると、慌てた声で十代目がこすらない方がいいと仰るので手を止める。
…夢、さっきまで忘れるものかと思っていたのは覚えているが、内容自体は綺麗に忘れてしまっている。

「覚えてないですけど…ああ、でも十代目が出てきましたよ!」

「俺?」

「はい。名前呼んで貰った気がします」

「それ、獄寺くん起こそうとして俺がかけてた声じゃないの?」

「あ、そうかもですね。まぁ、どっちでもいいっす。俺、十代目に呼ばれるの大好きなんで!」

さて、学校に遅れないように急がないと。と、立ちあがった俺の腕を十代目がくいっと引く。なんてゆーか、仕草の一つすらお可愛らしい。

「…獄寺くん」

「なんですか?」

貴方が俺の名前を呼ぶ。
それは、なんて甘やかな幸せなのだろう。

「いや…、なんか…好きだなぁって思っただけ」

「っ! 十代目ぇ!!!俺も、俺も大好きっすー!!!」

貴方がくれる幸せは、俺には少しくすぐったくて。
それでいて手放せない、大切な宝物。








いつか来る、その日の前に/end
作品名:いつか来る、その日の前に 作家名:サキ