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メイク・メシア

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牛肉と豚肉にパン粉、卵、みじん切りした玉ねぎ。
ハンバーグの原材料は大体そこら辺の具材で成り立っている。しかし一から作るなどという手間は――今日は、かけていられなかった。よって商店街にある肉屋からしっかり買い求めたものを使用する。その数はおよそ10枚。


野菜は適当に冷蔵庫から見繕ったニンジン、じゃがいも、こっちの冷蔵庫から発見したマッシュルームにズッキーニをお共にする。どれも鮮やかな色合いで痛んでいる様子はなかった。みんな舞台衣裳を着込んで準備万端、といった風情だ。頼もしいことである。

あとは調味料その他の重要な脇役を確認、素晴らしく豊富に備えられている中からいくつかを選ぶ。様々な香辛料等々の中、選んだのは缶に入ったデミグラスソース、廉価な赤ワイン。満足の選択だ。


小判型の肉からサランラップを外す。これでこの子達の準備は終わる。またあとでフライパンの上で、と愛情をこめて別れた。桜色の主役は彼と自分の大好物なのである。


さて、開幕の時間である。合図のベルの代わりにまずまな板と包丁を取り出す。最初に登場させたのは野菜、じゃがいも、ニンジン、ズッキーニ、マッシュルーム。表面を優しく洗い流す。皮剥きと下拵えを慎重に且つリズミカルに。じゃがいもは崩れないよう面取りをし、ニンジンは斜めにカット。ズッキーニは心持ち厚めに輪切り、マッシュルームはほぼそのまま入れることにした。具沢山の食感を今日は食したい気分なので。
大胆にカットした野菜をオリーブ油をしいた鍋の底で踊らせる。料理は音楽と一緒だ。料理人は指揮者なのだ。

しんなり、野菜のまとう硬質さが緩んだら、ひたれる程度水を入れる。後は落し蓋をしやや中火。ジャグジーのようで気持ち良さそうだ。

さあ、お待ちかね、ハンバーグの登場。しかし、これといって難しいことはしない。挽き肉は油をしいて焼かなくてもいい。ただ10枚フライパンに並べるのに少々手間がかかった。フライパンの縁ギリギリまでハンバーグが迫っている。バラ窓のようだ。でもまあ、大丈夫だろうという己の勘を信じることにする。じゅわっ。湯気と肉がパチパチ焼けるおとが拍手のようで心が浮き立つ。此方も落し蓋をする。


ジャグジーを楽しんだ野菜たちも、そろそろ頃合いのようであった。缶のプルトップを立てデミグラスソースを鍋の中に溶け込ませる。しかし落ちにくい。スプーンを使っても三分の一ほど缶の底に残った。出来るならば全部鍋の中へ旅だってもらいたい。思案の末再び冷蔵庫を探る。ビンゴ。目当てのものを発見しいそいそとキャップを外すついで賞味期限の確認。大丈夫そうだ。デミグラスソースの缶の中にトマトジュースを注ぐ。ほどよく混じりあったところで今度こそ全て缶の中身を鍋に入れた。
赤ワインも適量、とかしこむ。アルコールがどんどん旨味を置き去りに逃げていく。やがてパチパチという音からくつくつという音に変わり始め、甘酸っぱい空気が香ばしくみちる。野菜も大分水分がぬけて縮んだ。じゃがいもは面取りしたが残らないかもしれない。残念だが別段構いやしない。要は味+愛情なのだ。


ハンバーグをそれぞれひっくり返しラストスパート。片面が薄化粧を帯びる間調理器具を洗う。後片付けはこまめにやらなくてはならないし清掃することは嫌いではない。 


けれど、本当は。
本当に洗いたかったのは、いや、今すぐにでもかまってやりたいものは、別のものだった。


洗い立ての調理器具の水気を拭き取りながら、料理の完成を目前に控えて雲雀は静かに独白する。

あまりにも静かな独白だったので、おそらく本人も気付かなかっただろう。

















湯気と温かい胃の鳴るような匂いに沢田はわずかに顔を上げた。
ぼんやりした視界には知っている美しい手と。

「煮込みハンバーグだよ」
そして美しい声が耳に入り込む。

「え、……え」

体が認知しているものをようやく脳が受け取って回転し始めたかのように沢田は声をひきつらせた。雲雀、スーツにエプロン、片手に煮込みハンバーグ、片手にミネラルウォーター、…つまりこれは。

「…ヒバリさん、が、作ったの…?」

「そう、だから食べな」

野菜のように炎に炙られて身体中の水分を全部涙に変えて、縮んでもいい。焦がされ続けてもいい。


「拒食症になる前に食べな、沢田」




食べろ、学べ、そして遊ぼうよ沢田。唯一の君。












世界で一番のコックが誕生しました。
宇宙で一番好きな子がいるので。
作品名:メイク・メシア 作家名:夕凪