10月20日!
「んー?」
「なに見てんだ?」
弟の頬を掴んで覗き込んでいると、茶色の目が何度か瞬きする。くっきりした眉も、不思議そうな声も実に自分とそっくりだ。
「いや……良く似てるなあと思って」
「兄弟だから当たり前だろ」
はっきり物を言う性格も自分譲りか。育ての親みたいなものだから、これは仕方ないかもしれない。
「そうだけどさ。ちょっとくらい違わないかなあと思って」
「髪型が違うじゃん」
確かに、弟の頭にある特徴的な房は持ち合わせていない。ただそれも元々の色が同じせいで目立たない。
「ちょっとなあ」
「うーん、あとは目……とか?」
「それも気合い入れないと一緒だし」
試しに神経を集中してみると、鏡代わりの大きな瞳に自分の目が映る。左右異色の瞳は自分でも特徴的だと思うけど、気軽に出せないのが問題だ。出せた方が問題だと誰か言ってる気もするけど、さらっと聞き流す事にする。
「ずっと気合い入れとけば」
「めんどい」
「…………」
「なんだよ」
あからさまに呆れた視線を向けられて、むっとにらみ返す。文句がくるかと思ったら、意外な方向から攻撃された。
「大体、なんで違いを探してるんだ?」
「なんでって……」
そう言われて考えてみると、特に理由がなかった事に気付く。そこへ追い打ちのように言葉が飛んでくる。
「別に一緒でもいいだろ」
「そうだけど、なんつーか……うー」
「兄ちゃんは、オレと一緒だと嫌なのか?」
「や、むしろ嬉しい」
それは即答だ。生意気だし、可愛く無い時もあるけど、弟の事を嫌いだとか疎ましいとか思うわけがない。
「じゃあ一緒でいいだろ」
「うーん……」
悩むついでに頬をむにむにつまんでいると、なにするんだ、と抗議される。こういう反応は違うなあと思って、少しだけ満足した。
「一緒が嫌っていうか、違ってて欲しいっていうか」
「それって同じだろ」
「いや、それが違…………わない、かな」
自分でも分からなくなってきて首を傾げると、もっともだというように頷かれる。
「やっぱり。大体、兄貴の考えなんか」
「うるさい」
「たっ、暴力反対ー」
軽く頭をこづくと、ぺしぺしと反撃があって、それもコミュニケーションの内。しばらくじゃれた後に、しみじみとぼやいてみせる。
「お前に聞いたのが間違いだった。覇王なら答えてくれたのに」
「いや、多分『考えるだけ無駄だ』って」
手で両目をつり上げると、失敗したお化け屋敷みたいな声を出す。もう一人の弟のつもりだろうが、思わず吹き出す程似ていなかった。普通に話した方が似ているんじゃないかと思うくらいだ。
「ぷっ、それ真似してるのかよ。似てねー」
「なんだよ」
相手の機嫌が悪くなるのも構わず一人で笑い転げて、大きく息をつく。すっきりしてみれば、さっきまでの悩みも特に問題ではない気がした。
「はー、なんか考えるだけ無駄な気がしてきた」
「だろ」
呆れつつも苦笑している弟に抱きつくと、食べてる割に細っこい身体が腕の中に収まる。その体勢のまま肩に顎を載せて、一つ息をついた。
「とりあえずお前より身長高いから、それでいいや」
「っ、オレだって後数年したら兄貴より背が高くなってるんだからな!」
「オレがお前の年くらいは、ここまで小さくなかった気がするけど」
「気のせいだ!」
みーみーわめく身体をぽふんと叩いて、夕食の材料を買ってきた口うるさい弟に咎められるまで、なんとなくそのままでいた。
同じ顔に違和感があるなら、見えないくらい近づけばいいと思いながら。