骸_錯覚世界7題
4.情熱詐欺
人の生まれる声と、果てる声は似ている。
そんなことを、浮かれていく思考の海の中で、ふと考えた。自分にそうさせたのが何か、と気になって、ゆっくりと廻らせた視界を誘う、ひらひらと中途半端に引かれたカーテン。その間から、興味なさげにこちらを見やった野良猫と、ほんの一瞬だけ目があった。
感情の見えない瞳と小汚くも気高い姿が遠くへ消えて、ああ、そうか、春だったか、と思いつく。
「……ねえ、知っていますか? 人間の赤ん坊の声というのは、人間の産声というのは、発情した猫の鳴き声に、とても良く似ているんですよ。本能が落ち着かなくなる、何とも耳障りな音です」
落とした視線で白い肌をひと舐め。何かを産み出すような、何かから生まれるような高く短い声を聴いて、咽喉の奥だけで笑った。
人を騙す極意なんて簡単だ、嘘の中に真実を混ぜればいい。あるいはその逆。語られすぎて陳腐なその公式。
生と死と発情は、とても似ている。一体、自分の意図がそのどれであるのか、たった今組み敷かれているこの相手は、果たして見分けることができるのだろうか?
生と死と発情と、とてもよく似たそのうちのどれを、たった今、自分の下でコロされようとしている相手は、望んでいるのだろうか?
騙すつもりで触れていて、自分の真実の中に、相手の望む嘘をほんの一片だけ混じり合わせているつもりでいて。
生と、死と、発情と。一体、相手に何を求めているのかなんて。
あなたを温める36℃ほどの熱の、どれだけが嘘でどれだけが真実かなんて、もう自分にもわからない。