すれちがい
ほんの少し。
寂しかった。
それだけ。
いつものようにバイト先に出向く。
休憩室にはパフェを片手にご機嫌な店長と、にこにこしながら世話を焼く轟さんがいて。
(あれ…?)
見知った金髪が視界にないことに小さく息を吐くと、壁に貼られたシフト表に視線を走らせる。
(あ…佐藤くん遅番なんだ…)
居ない理由に納得すると、ハートや花が飛びまくる休憩室に耐えられず、更衣室に足を向けた。
(佐藤くん…最近会ってないなぁ…)
忙しさも一段落ついた頃。
「相馬さん、今日元気ないですね」
仕事しないのはいつものことですけど、とキッチンで何処かぼーっとする相馬の姿を横目に見、小鳥遊は皿を拭く手を止める。
「そうだねぇ…どうしたのかなぁ?」
隣でコップを拭いていたぽぷらも振り返って首を傾げる。
(心当たりがない訳じゃ、ないんですけどねぇ…)
先輩には言えないな、と心中苦笑しつつ小鳥遊は皿拭きに戻るのであった。
「……はよーっす…って…相馬?」
早番のシフトを終えたものの帰る気にもなれず、制服のまま休憩室で時間を潰していれば、背後から聞こえた声に勢い良く振り返る。
「……さとー…くん?」
ずっと聞きたかった声。
見たかった姿。
触れたかった……人。
それを自覚したら、何かがプツンと切れた。
あっという間に滲む視界に慌てて目元を擦る。
「……相馬。泣くほど寂しかったか?」
くしゃくしゃと無造作に髪を撫でる手が優しくて、微かに頷いて見せる。
「佐藤くん、は…?」
「ぁー…っと…まぁ…うん…」
どこか縋るように見遣れば、照れ臭いのか視線を泳がせるも耳が赤いのが見えて、ほんの少し安心する。
「……家で待ってろ。明日休みだろ?」
照れながらも小さく呟かれた言葉に嬉しくなる。
現金だな、なんて思いながら。
(チェーン掛けるなよ?)
(忘れなかったらね?)
(あ?…じゃあ行かねぇ)
(え、嘘だよ佐藤くんっ。ちゃんと開けとくからっ)