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ぎとぎとチキン
ぎとぎとチキン
novelistID. 6868
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けあけあ

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「俺がしてるんだから、帝人君もするべき!」

リビングのソファで膝を抱えて座っていた所、後ろから帝人を抱き込みながら一緒にテレビを見ていた臨也が、唐突に言った。
臨也が唐突な事を言う事には長年の付き合いで慣れてはいたが、だからといって、なんでもかんでも何の事を言っているのか分かる訳ではない。
まあでも今、テレビが良い所なので。(クイズ番組の正解を言っている)
暫く放置した後、というか番組が全て終わってから、問いかけた。

「なにをするべきなんですか?」

臨也も帝人の放置には慣れていたので同じ体制のまま、黙って待っていた。(後から相手してくれると分かっているので)
ご飯も食べて(今日は寒くなってきたので鍋。彼曰く鍋は一人じゃ出来ないから、らしいけど、今は一人鍋用の道具とか材料も売っているのになあ)お風呂も入って、まったりくつろいでいるというのに、なにをするべきなんだろうか。はみがきだって終えているのに。
臨也は帝人の言葉に待ってました!とばかりに帝人の肩に顎を乗せて、ぐりぐり押し付けながら、答えを言う。

「お肌のお手入れ。帝人君も三十超えたんだからさあ、お手入れぐらいするべき!」
「ああ……アンチエイジングケアですね。」
「お・は・だ・の・お・て・い・れ!!」
「………ああ、前に徹夜が続いた時に吹き出物が出来たって騒いでましたものね。」
「あれはにきびです!大人のにきび!!」
「二十歳を超えたら吹き出物です。」

ぎゃあぎゃあと子供のような(いや、むしろ大人故に?)言い訳をする臨也に、生暖かい気持ちになりながら思う。
大人のにきびって、それ、日本人特有のオブラートに包んだ表現ですよ、と。
臨也は膨れながらも、暫くぶつぶつ言った後、ころりと表情を変えてにっこり笑いながら帝人の頬をつついた。

「とにかく、ケアはしておくべきだよ、折角のつやつやもちもち肌が損なわれるなんて我慢出来ない!」
「……じゃあ、ガサガサカチカチ肌の僕じゃ、いりませんよね、さようなら。」
「そんな訳無いじゃないかばかだなあ帝人君は!俺は君がガサガサのカチカチで荒れ荒れだろうが焼け爛れようが垂れようが愛してるよ!もう可愛いなあ帝人君は!帝人ラブ!!」
「…………いざやさんは、ほんと、かわりませんよね。」
「呆れたような視線さえラブ!!」

ぐりぐりつついてくる手を払いもせず、再びテレビに目をやりながら言う帝人に、臨也はぎゅうっと抱きついてすきすきと繰り返す。
以前はここまで愛を繰り返す事は無かったというのに、行動の変化が顕著だ。
恥ずかしいなあ、とは思いつつも、嫌だとは思わない自分に帝人は内心溜息。
毒されてる、それが良いのか悪いのかは分からないけれども。

「お金が勿体ないので、別にいいですよ。」
「そんなの俺が買ってあげるから!ていうか俺がしてあげる!」

臨也はいそいそと立ち上がって洗面所まで行くと、彼曰く「お肌のお手入れグッズ」を持って戻ってきた。
帝人の意見を聞き入れるつもりは端から無いらしい。
ソファに座る帝人の前(つまり床)に躊躇なく膝をつき、テーブルの上に色々置くと、一つ手に取って掌に出す。
ぴしゃぴしゃとした液状のそれは、化粧水だろうか。
30年以上生きてきたが、実は使用経験が無いのでよく分からない。
分からないが、とりあえず、宣言通り臨也は手ずから帝人にそれを塗り付けるつもりらしい。
臨也の楽しそうな顔に、諦めて帝人は目を瞑った。
すると、途端、何故か唇にふにりとした感触。
咄嗟に目を開けて、じとり、睨んでみた。

「……それ塗るんじゃなかったんですか。」
「いやあ、だって、キスを強請ってるみたいで可愛くてさあ!ごめんね!」

全く悪びれない臨也に、再び溜息。
溜息で幸せが逃げるのなら、自分はどれだけ臨也の所為で幸せを逃がしているのだろうか。
その分俺が幸せにしてあげるよ!なんて返されそうなので、言わないが。

(だいたい、じっさい、しあわせ、だし、)

長く節ばった指が、視界に入ってくる。
その指が、意外と暖かいことを知っている。
化粧水(と思われるもの)を纏った指が頬に触れて、帝人は目を閉じた。
そうだ、優しく触れるこの手が離れたら、ひさしぶりに自分から口付けてやろう。
そんな事をたくらんで、帝人は少し微笑った。

作品名:けあけあ 作家名:ぎとぎとチキン