我慢のススメ
久しぶりに外で酒を飲んだ。
特に何があった訳ではなくて、飯のついでに。
バイト帰りに相馬と2人で訪れた居酒屋で乾杯して、飲み食いすること数十分。
真っ赤になって既に眠気と格闘している相馬に苦笑する。
自分が酒が強いという自覚はあまり無かったが、相馬が弱いのは確かなようだ。
襟元から見える細い首も、見え隠れする鎖骨のラインも隠そうとしない。
(…俺は誘惑されてんのか?)
余りに無防備な恋人の様子に、自分に都合のいい解釈をしそうになり軽く頭をふって考えを断ち切った。
「ほら、潰れるほど飲んでねぇだろ?帰るぞー」
気分は悪くないようだが、足元の怪しい相馬を片腕に会計を済ませて店を出る。
「駅まで送れば帰れるか?」
「…さとーくんち…いっちゃダメ?」
「…あ?近いし構わないけど…明日休みか?」
「んー。だからなにしてもいいよー?」
「ちょ…なにって…」
酔っ払いというのは実に質が悪い。
こんな事言っておきながら、実際に襲いかかろうものなら、翌朝酔いが醒めたところで文句を言われるのがオチだろう。
(…頑張れ、俺)
心中でため息をつきつつ、佐藤は自分を励ますのだった。
(…今日は夜が長そうだ)