喧嘩のち仲直り
喧嘩をした。
きっかけはとても些細なことだったんだ。
それこそ何だったか記憶も曖昧になる程度の。
だけどそれ以来…ぎくしゃくした関係が続いている。
「…相馬」
「…っ…ぇ、あ…なに?」
何をされた訳でも無いのにビクついてしまう。
声をかけられただけなのに思わず肩が震えた。
「……皿、取って」
「ぁ、うん。…はい」
いつもの仕事でさえ、支障をきたす状態がかれこれ一週間ほど続いている。
目が見れない。
話せない。
佐藤の真っすぐな視線だけで怖くなってしまう。
「…、っ…俺…あっちで仕事してるから…」
なんかあったら呼んで、と言い残して背を向けると、逃げるように倉庫へと足を向けた。
「………はぁ…」
気まずすぎる。
というか怯えられている。
きっかけはちょっとした口論だった。
確か轟がどうとかいう感じのくだらないもの。
それでも何故だかその日はやたらイライラしていて、パイプ椅子を蹴飛ばして出て行ってしまった。
それ以来、あの調子である。
「………はぁ…」
今日何度目とも解らない溜息をつく。
こんなんでは仕事なんか手につくはずも無い。
確か今日は二人とも早上がりなはずだ。
帰りに絶対捕まえて話をしよう、と佐藤は密かに心に誓うのだった。
仕事終わり。
いつものような覇気などどこへやら。
更衣室で絵に書いたようにへこんでいる相馬に声をかける。
「…話、あんだけど」
「…えっ…はな、し?」
「そんなに時間かからないから」
「………うん」
なんとか連れ出すと、停めておいた車に促す。
後部座席に乗ろうとするのを、半ば無理やりに助手席に押し込んだ。
「あの、さ…」
「………」
立ち込めた沈黙が重い。
一言謝れば済むのに、その一言が言えない。
「……ごめ…んなさ……」
蚊の鳴くような声で告げられた謝罪。
先を越されて驚いて見れば、相馬の瞳は今にも零れ落ちそうなくらいの涙が溜まっていて。
瞬きと共に決壊した涙は留まることを知らずに頬を伝う。
「……謝る…から、別れ、…ないで…っ…ひっく…」
何かを誤解しているらしい相馬は小さくなったまま、はらはらと涙を落としつづける。
「俺、さとーくんのこと…」
続く言葉が解ったからこそ言わせない。
乱暴に涙を拭ってやると、言葉を飲み込むように唇を塞いで深く口付けを交わす。
それが総ての答えになるから。
「ん…っふ…、…はぁ…」
「…っ……別れてなんかやるかよ、ばーか」
(…いきなりキスとかずるい)
(あ?ごちゃごちゃ言うからだろ?)
(誰か見てたかも知れないじゃん…っ////)