ぬくもり
喧嘩して仲直りした途端、気にもしていなかった「触れたい」という欲求が我慢できなくなった。
細い肩とか。
泣いたから潤んだ瞳とか。
今すぐ押し倒してめちゃくちゃにしてしまいたくなるのを必死で堪えた。
(……俺はケダモノかよ…)
気付かれないように息を吐くと、いつもの3割増で帰路を急ぐのだった。
「…っあ…ちょっ…」
車を下りるなり、早足で相馬の手を引き、引きずるようにしてたどり着いた玄関。
開けた瞬間にリミッターは外れてしまった。
噛み付くように口付けると、腕の中に抱いて実体があることを確かめる。
苦しさに開いた歯列の隙間から舌を捩込むと、搦め捕って翻弄する。
息苦しさでさえ快楽を煽るスパイスになる。
「…ぅ、んっ…」
ただひたすら快楽を求める中で胸を押される感覚に唇を解放すれば、相馬はガクリと膝から崩れて肩で呼吸を繰り返す。
「…っはぁ…苦し…ってば…」
熱に浮されたような上気した頬と潤んだ瞳で見上げられる。
それだけで弱ったウサギのように見えてしまう。
「…悪いな、相馬」
「…ぇ?」
「……我慢」
「…我慢がどう、したの…?」
「…出来そうにねぇわ」
問答無用で華奢な身体を抱き上げると、ベッドまで連行する。はやる気持ちを押さえ込んで服を脱がせば、淡く色付いた肌が艶っぽい。
「……さとーくん」
「…あ?」
「……我慢」
「我慢ならしねぇよ?」
「……うん…しなくていい…俺も…触りたかった、から…」
恥ずかしげに呟くと、顔を隠すようにシーツに顔を埋める。
あらわになった背に舌を這わせ痕を刻み付ければ、甘い刺激に背が震えた。
「あんま可愛いこと言うな」
「っん…あ…っ…そんなつもりじゃ…」
「ふぅん…ならいいけどな。取り敢えず声、聴かせろ」
「…ひっ…ぁん…」
室内に響く甘い嬌声に目を細める。
たかだか数日触れられなかっただけなのに、もうずっと触れていなかったような錯覚。
「……それだけ欲してるってことか」
触って。
繋いで。
満たしてゆく。
何も考えられなくなるほどに、本能に任せて身体を交える。
交わす温もりが、愛おしくて堪らなかった。
「……………もう無理。さとーくんの馬鹿変態鬼畜絶倫変態」
「…変態って二回言ったろ」
「だって…変態じゃん。もう動けない…」
ごろんと乱れたシーツの上で背を向けた相馬の細い身体を抱きしめる。
「三回目、だな。罰としてもう一回…」
「…ばっ…無理だって言ってるじゃん!!腰が痛い足が痛いダルい…もう死んじゃうかも…」
じゃれ付く佐藤を引き離そうとするも、途中で諦めて大人しく腕に収まる。
「…観念したか?」
「ううん…ただ佐藤君の腕の中は居心地良くて好きだな、って…思っただけ」
「なんだよそれ………恥ずかしい奴」
突然の告白に、今度は佐藤が耳まで赤くするのであった。
(さとーくん耳まで真っ赤)
(…………うるせぇ、こっち見んな)