激情
時々。
どうしようもなくめちゃくちゃに…壊してしまいたくなる。
愛おしいが故に憎らしい。
そんな、感情。
何の変哲もない日だった。
いつものように料理作って、種島をからかって、轟の惚気話を聞く。
何も変わらない。
いつも通り。
その時までは。
シフト終わり。
着替えようかと休憩室に向かう中で、偶然耳に届いた会話。
「えーっ。相馬さんって彼女居ないんですか?」
「そうですよー!!仕方ないから山田がなってあげてもいいですよ!」
「あはは、そんな人居ないよ」
「じゃあ好きな人はー?」
「さぁ、どうかなー」
自分が恋人だなんて言えないのだから、そうごまかすのは当たり前。
でも今日は何故か…それがどうしても許せなかった。
「…おい相馬。ちょっと来い」
「え、あ…佐藤くん?」
着替えが終わるなり、腕を掴んで引きずるように店から連れ出す。
「さ…とーくん…っ。痛い、よっ…」
そう言われてやっと我に返った。
掴んだ腕の力が強かった事。
自分のペースで引きずって来てしまった事。
「……悪ぃ」
「ううん、いい…けど………どうかした?」
「…………いや、なんでもない…。お前ん家、行ってもいいか?」
部屋の玄関を開ける。
人目が無い、と自覚した瞬間、靴を脱ぐのもそこそこに、佐藤は性急に身体を求めた。
唇を重ねる、舌を絡める、貪る。
お互いの呼吸すら飲み込むように交わす口付けだけで身体の芯から溶けて行く。
「ん…っふ……く…っん…」
「…ん…っ…」
佐藤の態度が違った理由。
それを突き止めたくて必死で舌を絡めて応えて行く。
あっという間に脱がされ、片足を抱えられれば、縋り付くように抱き着いた。
指が、直接触れられる。
理性なんかもう、吹き飛んだ。
押し寄せる快楽に身を委ねて、ただ上り詰める。
いつもより荒々しいその愛撫にただ溺れた。
そのまま言葉少なに雪崩こんだベッドで身体を繋ぐ。
甘い時間なんて物はない。
獣のように、ただ欲望をぶつけ合っただけの情交。
すべてが終わって、上がる息を落ち着けた後で佐藤はごめん、と一言だけ呟いた。
「……なにかあった?」
拒否されないのを確認して、相馬はそっと身体を寄せる。
手荒に抱いたのも、なにか理由があるだろう事を解っているから、それが知りたかった。
「……好きな人いるかって言われて…ごまかしたろ…」
「……あぁ、それ…」
「解ってるんだ。言える関係じゃねぇし…でも、さ…」
そこまで言ってそっぽを向いてしまったけど。
僅かに見えた耳が真っ赤になっていたから照れているんだと思う。
だから…その背中に抱き着いて呟いた。
「……俺の好きな人は佐藤君だよ。そんなの…当たり前でしょ」
愛しいが故に壊してしまいたい。
そんな愛だってある。
振り返って指を絡めると、細い身体を腕に納めた。
(好き過ぎるのも考え物)