ねこねこパニック!
「…………?」
朝起きて感じたのは違和感。
何かが、おかしい。
何かがくっついているような、そんな感覚。
「んー…?」
それが何か解らないまま、いつものように顔を洗おうと洗面所へと向かう。
何の気無しに見た鏡で、相馬は思わず言葉を失った。
「な…っ……」
鏡に写った自分の顔になんら問題はない。
あるのは髪…というか頭。
そこには元からある髪と同じ毛色の猫の耳が“生えて”いた。
「ぇ……ぇえっ?」
咄嗟にソレを引っ張る。
痛覚はきちんとあるらしい。
おかげで痛い。
自業自得ながらほんの少し後悔したのだった。
取れないことを確認した所で、気になることがもうひとつ。
ある程度は予想をしていたものの、肩越しに自分の後ろを見て相馬は深々と溜息をついた。
揺れる、長い尻尾。
耳と同じ毛色で優雅に揺れている、普通の人間には有り得ないモノ。
そっと手を伸ばして掴むと、やっぱり興味からか引っ張ってみる。
「………っ、痛いし…取れないし…」
猫踏んじゃったの猫の気持ちをリアルに自分で体験しながら、身に起きたトンデモ現象に相馬はひとり溜息をつくのであった。
「………で?今に至る、と」
早朝から呼び出された一見怖い金髪の青年、佐藤は眠気から来る不機嫌を隠そうともせずに、目の前の黒い塊を見た。
信じられるはずがない。
早朝かかってきた電話が『佐藤君大変っ!!猫になっちゃった』である。
悪戯にしては質が悪い。
ホントだったらそれはそれで達が悪い。
どちらにしても、あまり嬉しくない状況に、佐藤は相馬の部屋に駆け付けたのだ。
「…見せてみろって」
「うぅ…」
目の前の黒い塊。
佐藤が置いて行った大きいパーカーを被り、ズボンとクッションで器用に耳と尻尾を隠す相馬に近付くと、遠慮なくフードを剥がす。
「…ぁ…ゃん…」
「喘ぐな、馬鹿」
「喘いでないよっ」
フードの下から表れたのは見事な猫耳。
玩具などではなく本物の。
「……良く出来てるな」
「ぁ、やっ…痛い痛い。引っ張っちゃやだっ」
「悪ぃ…」
同じ反応をする佐藤をとめながら、怖ず怖ずと尻尾を出す。
「……引っ張らないでね?」
先に釘を刺し、長く揺れる尻尾を佐藤の前に出す。
「…本物なんだな」
ちょんちょんと指先でじゃれるようにつつく佐藤に、相馬は深い溜息をつきながら途方に暮れた。
「…でも意外と似合うんだな、猫耳」
「ふぇっ?」
こっちこーい、とソファに座った佐藤は隣を叩く。
隣に座れ、ということらしい。
そーっと隣に身を寄せれば、思いの外柔らかい手つきで髪と耳を撫でられる。
くすぐったいような感覚に、首を竦めれば、それが面白かったのか繰り返し撫でる。
「く…くすぐったい…」
「んーだろうな」
「やめてはくれないの?」
「うん」
「えぇ…っ」
ごろごろと、それこそ猫のように宥められつつ、そっと表情を伺う。
あまり表情が変わらない佐藤だけど、その表情が心なしか優しくなっていることに気付いて。
猫になるのも悪くない…のかもしれない、などと思う相馬であった。
(ところで…どーすんだ?)
(……わかんない)
(ま、いっか)
((…可愛いし))
((佐藤君優しいし))