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幸せな夢

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目の前の信じ難い光景に、少年は大きな赤銅色の瞳を揺らした。


真っ白なシーツが掛けられた大きなベッドに、二人の男性が横たわっていた。少年もとい刹那から見て左側で眠っている赤毛の男は、体を横向きにしてもう一人に背中を向けており、右側の茶髪の男は仰向けだが少し顔がもうひとりの方に傾いている。
刹那は、他人の趣味に口を出す様な事はしない。同性間での恋愛でも何でも好きにすればいいと思っている。だが、それでも、敢えて言わせてもらいたい。お前たちは仲良く並んで眠るような間柄ではない筈だ!と。刹那の記憶に間違いが無ければ、赤毛の男の名はアリー・アル・サーシェス。戦争狂の傭兵で、世界の歪みのひとつだ。茶髪の男はロックオン・ストラトスことニール・ディランディ。ガンダムデュナメスのパイロットで、刹那たちガンダムマイスターの兄貴分だ。そして、この二人の関係は、仇と復讐者の筈だった。
刹那は訳が分からなかった。一体この二人はいつの間に同じベッドで眠るような関係を構築したのか。人と人とが理解し合える世界、それは自分の望む世界だ。もしこの二人が理解し合えたというのなら、悲しい復讐を遂げずに済むのなら、それに越した事は無い。喜ばしい事だ。そうやって憎しみや悲しみを無くす事で世界は平和になっていく。そう思うのに、刹那の胸は何だかモヤモヤとして、黒い塊が蟠っている様で気持ちが悪かった。

何故この二人が親しくなっているのだ――自分を差し置いて!

苛立ちを抑えられないまま、ぼんやりと二人を見詰めていた刹那は、ある事に気が付いた。二人の間に、少し距離がある。人ひとりが入れるほどの空間ではない。だがそれは、大人ならの話だ。刹那は年齢の割に少々小柄なため、難なく入り込めるだけの余裕があるように感じた。そう、これは刹那のためのスペースだ。何の根拠も無く刹那はそう思い、躊躇うことなくベッドに侵入した。
ロックオンの方に体を向けて横たわると、穏やかな寝顔が目に入った。
――ロックオンはこんなに綺麗な顔をしていただろうか…。
そう思ったと略同時に刹那はロックオンの唇に自分のそれを重ねていた。優しく触れるだけの、幼いキスだった。無性にロックオンの深緑の瞳が見たくなって、そのままじっと見詰めていると、僅かな呻き声が聞こえた。しかしそれはロックオンが発したものではなく、刹那の背後から聞こえてきた。
「人が寝てる横でイチャイチャしてんじゃねえよ、ガキ」
アリーは心底苛立たしげにそう言い捨てた。羨ましいのか、と刹那は思った。仕方が無いので体を起こし、アリーの左頬に口付けを落と――
「いやいやいやいや何してんだこのクソガキ!」
刹那はガッと音がしそうな勢いでアリーに顔面を掴まれ、口付けは失敗に終わった。
「……お前もしてほしいのかと思った」
「んな訳ねえだろガキ!いいから寝てろ!」
何だか少し残念な気もしたが、素直に体を横たえると、刹那は優しいまどろみに身を委ねた。
すぐ傍に眠る二人の体温が、とても心地よかった。


目を開けると、モニターの光に照らされた、見慣れた天上が目に入った。狭いベッドの上には刹那ひとりしかいなかった。どうやらうたた寝をしていたようだ。制服に少し皺が付いてしまった。
寝癖もそのままに部屋を出ると、ロックオンに会った。
「なんだぁ、その頭。寝てたのか?凄い寝癖だぜ」
笑いながらそう言って刹那の頭をくしゃりと撫でると、彼はそのままコンテナの方へ去っていった。優しい手だった。刹那の好きな深緑の瞳にも、優しさが溢れているように感じた。
ロックオン――ニールの瞳は何色だっただろうか。どんな風に刹那を見て、どんな風に頭を撫でてくれたのだったか。今はもうライルの姿しか思い浮かばなかった。
夢の中でしかニールに会えないのなら、きちんと瞳を見ておきたかった。そう思いながら、刹那はブリッジに向かった。


多分とても幸せな夢だった。アリーと、ロックオンと、刹那と、三人で仲良く眠れるなんて、夢でもなければ有り得ないのだから。
作品名:幸せな夢 作家名:arisa