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THE LONELY BROTHERS

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いたいけな少年の心を存分になぶり・いたぶり・弄んだ代償は大きいものだ、という口ぶりからは想像出来ないほど穏やかな態度で、嵐士のテノールは泉水の耳元に届いた。
「まったく、あの子は」
その”あの子”とやらの母親よりよっぽど母親らしい口調であることに、泉水は少々気味悪く感じはしたが、そんなことを言おうものなら嵐士の心臓は止まってしまうかもしれないと、口は噤んだ。
そう、嵐士の想い人は泉水であった。それは誰しもに明白であり、当然泉水自身、気付いていない、わけがない。その部分に、ほんものの恋愛感情は伴うはずもないが、世間一般でいう”兄弟愛”をある程度逸脱していることも、無論理解の内にある。
嵐士の、兄、としての感情は分かりづらく、掴みにくい。泉水の知っている他人の兄は、弟を天使だの妖精だのと形容したりはしないし、まるで神に身をささげるかの如く、こうべを垂れることもないはずだ。流石にそれは冗談めかしていたが、周りの連中がするような軽々しい冗談ではなく、「今からすることは冗談だ」と言い聞かせているようにも見える、冗談であった。
それは、冗談だから/本気なわけではないから、という意思を暗に伝えようとしているような、言葉では形容しがたい、不思議さを伴って泉水の元に落ちる。
泉水には嵐士のことが殆ど理解できないでいた。
兄弟の、兄弟らしい部分でしか、嵐士を計ることが出来ない。


泉水がいくらのんべんだらりとしていようと、嵐士にとっては泉水がその場にいれば問題ないらしかった。
リビングのテレビはすでに液晶へと変わっていて、画面にうつされる世の中の様々は右から左へと抜けていく。
元来真面目な性格である泉水にとって、ニュース番組はまたとない暇つぶしだが、たまにはこんな日もある。テレビが見やすいようにと、嵐士は泉水の正面ではなく、そこからもうひとつ隣の席で黙々とぬいぐるみを編んでいた。
落ちついた日にはかわいらしいものを手芸したり、色とりどりのお菓子をつくるのが趣味の男。毎度その姿を見ていると、反面教師的に、泉水の趣味は男くさくなる一方だった。
それを一番に嘆くのが元凶である嵐士自身だとしても、だ。
「また、そんなもん作ってんのか」
「だって可愛いんだもん。泉水もほしい?」
「いらねえ、死んでもいらねえ」
「そうかなあ、泉水にはぴったりだと思うんだけど」
「ウザイ!キモイ!」
「ひどい……」
本気で拒否すれば本気で落ち込むのが嵐士であり、毎度一回はこのやり取りをしているような気がする。
一度拒否すればその後は口を慎むものの、次の日になれば懲りずにまた、かわいらしい作品達を手にとって「似合うのに」と言ってみせる。繰り返されすぎて、その一言にはもう、意味という付与は残されていない気がした。
テレビの、誰とも知らぬ声だけがリビングに響く。嵐士はもう、何も言わない。黙々と作業に打ち込んでいた。泉水から見て、左側の耳にかけられた長い髪が、するりと解けるようにして、頬に落ちる。掬われて、また掛け直される。後ろでくくりきれないのだったら、ピンでとめてしまえばいいのに。どうせそれも、花柄や動物柄の、ファンシーなものしかないんだろうけど。
美しい男だった。黙っていれば。それでも泉水にとって嵐士は兄でしかなく、嵐士にとって泉水は弟でしかない。
嵐の泉水に対する態度は時折、不可解であるような気もしたが、恐らくそれは、”あの子”とやらに泉水を重ね合わせているからに違いないのだ。
「嵐士、お前って」
「ん、なあに?」
「あいつのこと忘れられなかったりすんの」
「……さあ、あいつって、誰かな?」
嵐士の笑顔は鉄壁で、とてもじゃないが泉水の力では崩せるものではないらしい。


あの子って言えばいいのかよ。
そんな風には、言えなかった。
作品名:THE LONELY BROTHERS 作家名:knm/lily