君がいたから
一体此処には誰が居るのだろうか。そう思って部屋の奥に進むと椅子の向こうに何かの気配がした(王さまの椅子みたいだ)。咄嗟に僕は腰につけたモンスターボールを持ち、ピカチュウを繰り出した。(トレーナーになったらパーティーに入れるって決めてたんだ) 。ピカチュウはほっぺの電気袋に電気を溜め込み何時でも攻撃準備は満タンだ。けど、それは杞憂に終わった。椅子に隠れるのは小さな子どもだったんだ。そして何だか子どもの様子がおかしい。一歩歩み寄ってみようとするが僕達と距離を保とうとしてその分後退り、僅かに身体を震わせている。(怯えてるんだ、僕に…)
ピカチュウに戦闘体勢を止めさせた僕はその子と同じ視線まで屈んでんでゆっくりと近付いた。
「大丈夫だよ。怖がらないで」
その言葉に足を止めた君は俯きながら視線を揺らした。一歩ずつ近付いて後少しで君の身体に触れそうな所で、ピシャリと乾いた音が部屋に響き僕の手は宙に浮かぶ(君に手を払われたんだ)。それでも僕は目げずに零れ落ちそうな瞳の君をぎゅっと優しく抱きしめる。
「怖がらないで。僕は君を傷つけたりはしないから」
「…ほんとうに?」
ポツリと、けれども確かに耳に届いた君の声。眼前には無垢で綺麗な瞳。きっと閉鎖されたこの空間でしか過ごしてないから外の世界を知らないんだ。
君も一緒に行こう。外はもっと色んな人やポケモンがいて楽しいよ。僕が教えてあげる。
そうして僕は君の手に差し伸ばす。おそるおそる君は小さな手で、確かに僕を掴もうとした___。
けど、其処で僕の目の前は真っ暗になった。
また同じ夢を見た。知らない部屋で知らない君と出逢う話。外ではマメパトが鳴いていた。目覚まし時計を見ると9時を差していて、僕は思わずベッドから飛び上がる。もう直ぐに親友のチェレンとベルがやってくる時間だ。
今日は初めてのポケモンを貰う日で、そして僕の旅立ちの日だ。
(夢って曖昧なモノで、君の姿も名前もこの時の僕は覚えていなかったんだ)