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叔父さんBAD

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「蘇芳くん、今夜は焼肉パーティだ。ロースにカルビ、ミノ、ハツ、タン、レバー、スペアリブ。焼いて焼いて焼きまくって、二人で存分に楽しもう」

そう言って叔父さんは笑った。その手に握られているのは、一見何の変鉄もない懐中電灯。今個々にあるのが異様に感じるような品だが、俺は既に、それが何をするための物であるか知っている―――……

「蘇芳くん?」
瞳の奥に確かな狂喜を宿らせて、ほとんど恍惚としたような笑みで叔父さんが問った。俺はもう吐きそうだった。口を開けば胃の中のもの全部下手したら胃まで吐いてしまいそうで、口を開くことができない。
酷い顔色をしているだろう俺を、叔父さんが慈しむような目で見る――ああ、いやだいやだ。見ないでくれよ、

「さあ、蘇芳くんもやるんだ」

ぐっ、と、眼前に懐中電灯――の外見をした高出力に改造された紫外線ライト――を突き出され、俺は思わず仰け反った。さあ。叔父さんが笑う。その笑みを好きだと思ったことを信用していいと思った自分を、声を上げて笑ってやりたくなった。吐いてしまうから、できないけれど。
「蘇芳くん?」
叔父さんはライトを、俺の手へ押し付けた。半ば殴るようなその力に、びりびりと手が痺れる。叔父さんは笑顔に俺を見た、…が、その瞳はもう笑ってはいない。提案ではない命令だと、視線が言う。
「や・る・ん・だ。君が倫理だとか人権だとかどうだとかを気にしていると言うなら、それはとんだお門違いだよ。だってこいつは、ねえ、」
俺にライトを握らせて、叔父さんが笑った。圧倒的高位に頂点しているものだけに、浮かべられる笑みで……
「人間以下の、畜生なんだから。遠慮することはないよ」

……う、ぇ。

びちゃっ。室内を覆う臭気に、酸っぱい匂いが混じった。咄嗟に口を覆おうとしたせいで、ライトも俺の吐瀉物でぐちゃぐちゃになってしまった。一度吐き始めるともう止まらなくて、俺は床に膝を着いて吐いた。冷静さを残した斜め上の自分が、ヤシロさんごめんなさいなんて思う。
胃の中のものを全て吐ききって胃液も吐いて生理的な涙と鼻水を垂らして俺はみっともなく震えた。衝動のままに、ライトを床に叩き付けると、ライトは床で大きく跳ねて何処かへ転がっていった。

掌が、服が、付いた膝が、嫌に湿っていた。それがなんのせいなのかなんてもう、考えたくない。自分の吐瀉物だと思い込めたらどんなに良かったろう…ああでも、吐瀉物はこんなに赤くないのだ。頭が酷く痛かった。鋭い痛みは、否応なしに俺の意識を覚醒させる、気付かないままでいたいのに、真実へどんどん引き寄せようとする――そう、これは血だ。俺の?…違う。叔父さんの?……違う。これは、そう、おれの、目の前にいる――………


「蘇芳くん」
ふと、目の前に棒状の物が差し出された。俺はきったない顔で、それを差し出した主を見上げると、叔父さんだった。叔父さんは溜め息を吐いた。

「つくづく君は人が良すぎるよ。悪いことをしたらお仕置きをする。それは人間だって一緒じゃないか……ほら」
叔父さんは俺を引っ張って立たせると、吐瀉物と血で汚れた俺の掌を自分のシャツでなんの躊躇いもなく拭いた。そして俺の掌に棒状のそれを、ライトを乗せると、俺の手の上からそれを握った――……ライトを、あれへ向ける。

「さあ、蘇芳くん?」

叔父さんがざらついた熱っぽい声で、俺を促す。スイッチを自らの指で入れろと促す。俺は小さく首を振った。それが精一杯だった。
「さっきも言ったが、躊躇うことはないんだ。君のしたいようにしたら良い。私が全てを許そう。全てに全てを許させよう。私は君の味方だからね」
くつくつと叔父さんが喉を鳴らした。そのあれに対する悪意と侮蔑に満ち溢れた笑みが恐ろしい。俺は叔父さんが恐ろしくてたまらない――……ぶるぶると震える俺の手を叔父さんが押さえ付けた。

「蘇芳くん?」
ああ、糖衣だ。優しい正しい叔父さんなんて唯の外側。一皮剥けば現れるのはこんなものだ。
後悔した。ここに来たことを。あれに出会ったことを。叔父さんに好意を抱いたことを。安易にこんな所へ来てしまったことを―――……さあ、


かちっ。



作品名:叔父さんBAD 作家名:みざき