陽だまりの詩 GX三天才
「――……」
風の音が小さく聞こえて、窓の外は陽が輝き木々の葉を揺らしているのだろう。
ちょうどよい暖かさについ寝てしまっていた。
亮がふと目を覚ましたとき、聞こえていたのはいつもの声だった。
藤原はともかくとして、吹雪はいつ来たのだろう。
待ち合わせをしていたのだから起こしてくれればいいのに、と窓辺に寄り掛かっていた体を動かそうとして、動けないのに気づいた。
今身動きしたら、確実にこの本の壁は崩れてしまう。
レンガのように強固に積み上げられた本の山に、亮は囲まれていた。
「フムゥ…我が忠実なるしもべのオネストをここまで追い詰めるとは……さすが勇者」
だがまだ私のターンは終わっていない!
……藤原?
「クククク……それで貴様の攻撃は仕舞いか?俺のターン!」
なんだろう、二人とも妙に芝居がかっている。
「さあ怪ワカメの魔導師よ姫を開放して消え去るがいい!黒竜の雛を生贄に、出でよ!暗黒の狭間から生れし漆黒の星、レッドアイズブラックドラゴン!」
「な、なにい?!恋の魔法を使うのではないのか!勇者のくせに生意気な!!」
本の壁で何も見えないが、どうやら卓上デュエルでもしているようだった。
「さあ我がしもべ、恋の魔術を紐解く鍵よ!姫の元といざ行かん!必殺暗炎黒龍波!」
「な、何ィィィ!!!知らぬ技を使いおってー!!」
うん、俺もそんな技は知らない。
亮が頷く。
「ワーハハハハハ!愚かなる魔導師め!普通、敵の必殺技名などわざわざ知っているものがどこにある!」
暴走しすぎだ吹雪。思わずつっこんで、亮が脱力した。
藤原も芝居を続けながら冷静に口を挟む。
「うん、まあ言うだけなら誰でもできるしね。……それがどうしたァァァ!!!??恋の勇者の力などへのつっぱりにもならぬわァァァァ!!!!」
「えーと、はい。レッドアイズ生贄にしてー……レッドアイズダークネス特殊召喚んんんん!!究極のしもべよ暗黒の淵より降り立ち羽ばたくのだ姫と俺の未来のために!!」
吹雪がさらに叫んだ。
こいつ大丈夫か。
陽だまりの中、もはや聞き流している亮が頭を窓枠に乗せる。カーテンが開けられているせいで、差し込んだ光が少し眩しかった。
窓をちょっと開けていてもよかったかな。風を感じていれば、閉塞感もないと思った。
本はともかく、書類の類が飛ぶと混沌がさらにぐちゃぐちゃになるので藤原は基本的に窓を開けないのだ。
こつんと当たった窓枠は少し埃と錆びた金属と、古い木のにおいがする。
そっと手を上げ本の壁に触ったが、揺れて落ちたらその惨状はすごいことになるだろう。
謎のデュエルが終わればこちらに来るだろう、そう思って、現状を維持することにした。
「あー、いいからさっさと攻撃して」
藤原に言われ、吹雪がフムと頷く。
「今この名を唱えよう!悪しき悲しみの連鎖を解くために!ダークネス・ギガ・フレイム!!!」
「わーまけたあー」
藤原が感情のない声でそう言って、吹雪が高笑いをした。
「えーっと、な、何…だ、と…!この白き光は…!おお…おおお…心が浄化されていく…!」
「これからは悪の大王などに惑わされず、白き魔導師として生きるがいい」
「オネスト…!今まで泣かせていて済まなかった…!!すべては私を洗脳していた悪の大王のせいだな!」
どうやら藤原は吹雪によって改心させられたらしい。
どんなベタなストーリーだと思いながら、亮はまたうとうとしていた。
「そして姫は!?」
「ああ、まだ姫は大王の餌食にはなっておらぬ。恋の勇者よ、後は……任せた……ガクッ」
「魔導師ィィィィ!!!!!」
あれ?いつの間に友情芽生えてる?
そう思いながらぼうっとしている亮に、力強く近づいてくる気配が一つあった。
遠慮のない手が壁の一番上の本をどんどんどかし、取りはらっていく。
「――姫!ご無事でしたか!!」
ぱあっと顔を輝かせた吹雪がこちらを覗き込んでいた。
「……本の山が崩れているんだが」
「姫を拘束していた檻ならば俺が壊してみせましょう!!」
いや、そういうんじゃなくてね?
今、こいつに良識を説いても無駄だと思った亮は呆れた顔になってうきうきと壁を崩壊させる自称恋の勇者を眺めていた。
「魔導師」
「うん?」
声をかけると、カードを片付けしていた藤原が振りかえった。
「これ、やったのは誰だ?」
「檻のこと?吹雪だよー」
「ほう」
「やー…よく寝てるからって吹雪が悪ノリしちゃってさ。あ、本を傷めたりしたら許さないからね」
もはや遅いと思う、と豪快に本を散らかしている吹雪に亮が嘆息した。
「姫―!」
どさくさで抱きつかれて、思わず固まる。そんな亮の様子を藤原が笑って見守っていた。
「おい、誰が姫だ」
「え、亮」
そうか、要するにお前は俺を馬鹿にしているのだな、亮にスイッチが入る。
「勇者、私をここに監禁していたのは誰だ?」
「悪の大王です!」
俺が助けに来ました!元気よく吹雪が返事をする。
「そうか、ではその悪の大王を倒したいのでデュエルしてくれないか?」
亮がやっと動けるようなった身体で吹雪の手をぺしっと払う。
「姫が?」
「あそっか、じゃあ大王頑張れ?」
藤原の笑顔に、亮も挑戦的な笑みを浮かべる。
「……これでも、倍返しが信条なんだ」
「やだ、姫が怖いー!」
そもそも亮に悪戯したのはお前だろう、藤原も吹雪のフォローに回るつもりはないようだった。
「サイバーエンドで焼きつくしてやる……」
そう宣言した姫は自称恋の勇者、兼悪の大王相手に中指を立てて見せた。
作品名:陽だまりの詩 GX三天才 作家名:toco