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雨伽シオン
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【BSR・家三】女郎谷の関霊(せきりょう)【女体化】

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晩秋の宵口。政務から解かれた家康は、一人自室に佇んでいた。
日ノ本を二分した戦は終わり、世は太平を謳歌しつつあった。今年の実入りは上々のようで、人心も和らいでいると聞く。
この安らかな世界を共に見たいと願った女を想う。彼に反旗を翻した家の娘だった。彼女の父は斬首に処されたが、彼女自身の消息は未だ定かではない。累が及ぶことなく、どこかの寺に匿われていればいいがと家康は祈っていた。
障子越しに浮かぶ月を見上げていると、ふらりと人影が映った。忍かと思ったが、待てど暮らせど言葉を発する気配がない。
「誰だ?」
 誰何の声には無言の返事。刺客にしては殺気が感じられない。家康は障子を開けることにした。
そこに立っていたのは、菊重ねの着物を纏った女人だった。鈴虫の音が彩る夜の帳から覗く白い指先が、ゆらりと蠢く。その手を取って家康は彼女に微笑みかけた。
「そこにいたのか三成。今までどこに隠れていた? 」
「さあ、私には分からぬ」
 冷えた指先を温めるように握るが、三成は煩わしげにその手を払った。連れないのは相変わらずのようだ。
「ワシは信じていたぞ。お前が生きていると」
「さあ、私には分からぬ」
三成は言葉を知らぬ童のように繰り返した。その瞳はどこか虚ろで、焦点が合っていない。もともと線の細い女だったが、闇に佇む姿は儚げに見えるほど覚束なかった。
「何故返事をしない?」
 わけもなき不安に駆られて家康が問うたとたん、夜風にひらりと女の袖が舞い、我に返ったときには冷たい銀が首筋にぴたりと押しつけられていた。
「さあ……私には分からぬ。なれど貴様は……貴様の声だけは忘れはしない」
「ああ、そうだろうとも。お前がワシを忘れるわけがない。ワシがお前を忘れないのと同じように」
「ほざくな下郎が!」
 一陣の風が哭いた。
「赦さない! 貴様は……貴様だけは……!」
 迫り来る刃をかわし、家康は三成のほっそりとした手を掴んだ。よろめく華奢な身体を抱きとめ、ひんやりとした背を撫でる。
「何を……!」
 とっさの出来事に三成は体勢を崩したものの、弛んだ家康の手を引き剥がし、己よりも二回り太い首に両手をかけた。殺気を纏った冷気が家康の熱を蝕んでゆく。
「やめろ三成。お前にワシは殺せない」
 「黙れ! 貴様憎さに根の国から戻った私に殺せぬ者などいない!」
 主君や父の仇を取らんとこの自分を追ってきたこの女を、家康はいじらしいと思うと同時に憐れに思った。首を絞める闇が深くなればなるほど、家康の視界に滲む三成の顔は憎悪に染まっていく。
「お前の目は潰れている。もうやめるんだ、三成」
「貴様が潰したのだ。貴様の忌まわしき光が! なれば私も潰してやる……貴様の心臓を!」
 闇は家康を押し潰さんと重く垂れ込め、冷気は凍てつく刃となって彼を襲う。それでも家康はものともせずに、己の首から三成の細指を引き剥がした。蝋燭の灯火がゆらめき、家康の瞳に橙が踊る。そこに映し出されていたのは――三成を包み込んで捕らえる黒。
「お前は毒されているのだ、三成。行きすぎた忠義は時に身の毒になる。お前の目が潰れたのは、亡き光を追って闇に落ちたからだ」
「なぜ……なぜお前は秀吉様や父上を弑逆しておきながら、のうのうと生き長らえているのだ! なぜ己の罪を畏れ悔やまずに私を責める! いっそ私の恨みに喰われて狂えばいいものを!」
 憎しみに囚われた女の銀髪が月光に映え、光を失った金色の瞳が陰惨を帯びた。
「ワシの命はもはやワシだけのものではないからな。まだ死に身を預けるわけにはいかんのだ。生きているからこそできることもある。ワシとともにこの世で生きられないのは残念だが、せめてお前の苦しみを安らげたい」
「貴様に私の何が分かる!? 主君と父を殺されながらも、女ゆえに何も成せぬまま谷に身を投げた娘の苦しみが、お前に分かるというのか!」
 三成の白い頬を血涙が伝う。
――ああ、この娘は女郎谷に身を投げて死んだのだ。佐和山の城が落ちた折りに、石田軍家臣の婦女子たちが敵軍を怖れて身を躍らせたというあの谷に。
気高く清い涙を拭おうとした家康の手は一閃した小刀によってはじかれた。
「私に触れるな! 貴様に穢されることなく死んだ私に!」
「三成。お前はワシを恨んでもいい。……だがワシを拒むな。ワシは決してお前を穢したりはしない」
 三成が抗う間もなく、家康は彼女の雪のように冷えた身体を抱き寄せ、もはや息の通わぬ花びらに口づけた。
「あ……あ……ああ……」
 闇を暴かれた三成の身体はふらりと傾いて床に崩れる。
「見えぬ、見えぬ、あの方のお姿が……」
両目を押さえて嘆く女を家康は強く抱きしめ、愛らしい耳元に唇を寄せた。
「三成、お前を愛している……」
その言葉とともに、たおやかな身が光に飲まれて消えていく。家康はもはや届かない手を天に伸べ、じっと虚空を見上げていた。