フラグ
原作の時間軸は無視なそんな感じになっています。
「折原さんが僕を好きになる確率はどの程度ですか?」
唐突な帝人の言葉に顔に張り付いていた笑顔が強ばる。臨也は池袋に粟楠会との取引に来ていた。
呼び止められて振り向けば見知った少年であって会話を拒む理由はなかった。
流れも何もあったものじゃない問いかけにらしくなく臨也は戸惑う。
(これ何? 告白? イタズラ? 冗談? 度胸試し?)
帝人の顔は恐れも気後れも焦りも緊張も、ない。全くない。
「好きは友愛博愛親愛ではなく恋愛感情的な、そういうのです」
少し言いにくそうに頬を赤らめている帝人に思わず胸がときめくが腑に落ちない気持ちが発言を制限する。
見た目通りの草食動物であるはずもないダラーズの創始者。
さてはて、何が理由でこんな言動をしているのか。
「これからの俺たち次第で確率はいくらでも変化するんじゃないかな?」
無難でちょっといい言葉をさらっと告げれば帝人は考え込むように「ゼロであり百みたいな感じですか? 面倒ですね」と呟いてメモ帳に書き込む。
覗き込めば見知った名前がたくさんあった。
「何それ?」
「メモ帳ですよ?」
「いや、いやいや」
奪おうと手を伸ばす臨也に「三人までなら教えてあげます」と帝人はメモを胸に抱き込む。
「同じ質問そんな人数にしたの?」
「いえす」
「どうして?」
「黙秘権を行使します」
帝人の手の中のメモ帳をよくよく見てみればアニメのキャラクターものだと知れた。連想で思い出すワゴンと女性。
「頼まれたの?」
半ば確信を持って臨也はたずねる。
彼女もダラーズではあるが帝人がそこまでする相手だろうか。
「弱味でも握られた?」
「・・・・・・よくわかりますね、情報屋さんってエスパーですか?」
「まあね」
他の誰かの後だったというわき上がった苛立ちは帝人の感心するような顔に相殺される。
気分良く臨也は「じゃあ、一番確率高いの誰?」とたずねる。
「これ、答えるまでの時間も計ってまして併せて教えますね」
帝人がメモ帳をめくる。
「一番は正臣です。『もちろん100%』と即答されました。その後に『女の子ならな』とつけられました。ほぼ同じ回答を六条さんにもされましたが驚いて一拍おいた後の回答なので即答の正臣の方がポイント高いですね」
「何その分析。これで二人分?」
「いいえ、あと二人いいですよ」
「・・・・・・シズちゃんは?」
先ほど見えてしまった名前を口に出す。
「保留です」
「え」
「先週に聞きにいったのですが未だに回答がもらえていません。会う度に『ちょっと待ってくれ、考えさせてくれ』と謝られて申し訳ない感じです」
天敵のいい面の皮ぶりに臨也は上機嫌に「そうなんだ」と相槌を打つ。ただの調査如きに有頂天になって馬鹿まるだしだ。
「0%の人間って誰?」
「残念なことにいません」
帝人はメモをしまいながら答える。
「口でどう言おうと人生はどう転ぶかわかりませんからね」
「確率聞く意味ないんじゃ」
「反応を見るための調査ですから」
帝人の言葉に臨也は「ふうん?」と返事をしながら目を細める。
「俺のこと、好き?」
「嫌いじゃないですが、さりとて好きだということもないですね」
帝人は笑う。食えない笑いをすると臨也は楽しくなった。
「みかプーっ!!」
声に目を向ければ帝人をけしかけたのだろう女性、狩沢絵理華。
帝人に近寄ろうとする彼女の間に立つ。脅されている材料は想像がつかないが自分のおもちゃが人に遊ばれている図は歓迎できない。臨也は殊勝にも帝人を庇おうという気になった。
「君が欲しがってるサイン色紙あげるから帝人君に関わるのやめてよ」
臨也の一言に一瞬固まった後、瞳を輝かせて「ぶぷう」と狩沢は吹く。
「さすが、さすがはみかプー!! シズちゃんに対してもそうだけどフラグ潰しにいって立ててくるとか! これだから天然は。いやーたまんないわ。でもダメよ私のだもん」
臨也を無視して狩沢はばしばし帝人の肩を叩く。
「また火のないところに煙を立てて」
「いいじゃない! だって楽しいもん」
「はい、僕の周辺の人は終わりました。平和島さんは」
「大丈夫。私がちゃんとやっといたわ」
笑いながら帝人からメモ帳を受け取りなにやら書き込む。
「それじゃあ、アンケートご協力ありがとうね」
「お時間とらせてすみません」
そうして自然と二人の手は繋がる。
俗に言う恋人繋ぎの形に。
「弱味って・・・・・・」
惚れた弱味はどうしようもない、そんな話。