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迷い子

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ディーノが迷子になった。正確には人混みではぐれ、行方が分からなくなったのだ。
溜息を吐いても事態は好転しない。携帯電話を取りだし、慣れた手付きで短縮を呼び出す。コール音は二回、出た声は変調された所為かどこか泣きそうだった。
「骸!」
「煩いです。今どこにいるのですか」
ただでさえ雑音が酷いのだ、用件を簡素に済ませるように言えば、目の前の看板を素直に読み上げてくれる。今骸が居る位置からそう遠くないので、決してそこを動かないよう念を押してから骸はそこへ向かった。まだ何かごちゃごちゃ言いたそうだったが、通話料がもったいないので通話は切ってしまう。
五分もしないうちに到着した建物の軒下で、いい歳をした男が大きくこちらへ手を振っている。今度は遠慮無く溜息を吐いた。
「貴方、子供ではないのですからはぐれないでください!」
ディーノが口を開く前にそう言い切り、骸は再び目的地へ歩を進める。が、シャツをを引っ張られる感覚に足止めされた。振り向くとちょんっと裾をつまみおずおずとこちらに視線をやる男の姿があった。
「もうはぐれないようにするから、な」
いい歳した男が――しかも文句なしの美丈夫だ――がそんな動作をしてもあまり似合ってはいない。しかしそれを可愛いと思ってしまったのは恐らく骸の惚れた弱みだろう。こんな危なっかしい人を放っておく訳にはいかない。
「……次からは気をつけてください」
「勿論!」
裾を掴んでいた手はいつの間にか骸の手を取り、強く握りしめる。それを振り払うことが骸には出来そうになかった。

作品名:迷い子 作家名:清華