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世界の終末で、蛇が見る夢。

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この、なにか切れそうな感覚というか切迫感、飢餓感は…恋愛感情では多分、ない。恋愛感情だったら、もっと甘く…ケーキのように柔らかく、ふわふわとして幸せな気になれるものだ。
「でも、仕事が手につかなくなるくらいなんでしょう? だったら、それは好きって事ですよ」
「確かに、すき、…だけど。でも」
行人さんが。そう口ごもる私を、妙に真面目な目付きで彼女は制す。
「先パイには悪いですけど、もうそのゆきひとさん、のことは諦めていいんじゃないですか? だって、1ヶ月でしょう。記憶も証拠も残っていないなら、最初から居なかったのとおんなじじゃないですか。だったら、もう忘れても」
「だったら!…だったら尚のこと、なかったことにしたくなんかない!!」
私は、私だけでも覚えていてあげなければ、ならない。それは最早愛情からではなく義務に近いと自覚している。それでも、好きだったあの人。割り切ることは無理だから。
佳恵は、激昂してしまった私についていけず、ぽかんとしている。
「…ごめん、なさい、なんか…興奮してしまった」
呟くようにそういうと、彼女はにこっと笑う。
「いいですよ、先パイの本音、少し聞けてうれしいです。いつも肝心な部分は喋ってくれないんですもの。だから、どーしてもお詫びって言うならケーキバイキング一緒しましょ。もちろん先輩のオゴリでっ」
「…そうね、佳恵ちゃんにしては、とても良い考えだわ」

甘いものは別腹というのは、結構本当だと思う。
佳恵と2人、ホテルのケーキバイキングで色とりどりのケーキを制覇しながら思う。
最近はあの夢のせいで食事を採る行為自体に嫌悪感が生じるから、ギリギリのカロリー摂取が続いていた。だから身体の調子が悪いのは、本当は夢見よりもこちらの方が原因だ。
幸いにして味のほとんど無いお粥やスープ状の栄養補助食品、あるいは甘く柔らかなケーキやチョコ菓子の類は大丈夫だった。
もとからケーキは好きだったけど…次々と甘味を攻略する自分は、端から見れば異様だと思う。
分かってる。こういうのは体に悪いことだってのは自覚している。でも、とにかくケーキを食べると落ち着くのだ。甘く、柔らかく、瑞々しい…。『あれ』を食べているような気がして心が休まる。
――何だろう、『あれ』って。口の中の甘ったるいクリームを熱い紅茶で流しながら思った。
がっついたわけではなかったが、それでも通常よりも早いペースに、流石に見とがめられる。心配そうに、そして不審感をあらわにして。
それでも、私は食べることを止められない。
『あれ』を食べたくならないように。我慢できるように、お腹いっぱいにしておかなければ。…そう思ってこんなに食べているのに、どうして空腹感は収まらないのか。いけない、あれは、あれだけは。でも、食べたい。あれを食べることが出来ないのならば、この際何でもいい、何か。
翌日、久しぶりに先生と会った。私を一目見るなり、気遣わしげな顔をした。仕事仲間には何とも思われなかったが、単に毎日顔をつきあわせていたから、多少の変化には気づかなかっただけらしい。
黙っているのも余計な心配をかけると思って、夢の話を打ち明けた。結局、毎日見続けている不可解な夢を。
それにしても、鵺野先生と話していると否応なしに行人さん(かれ)の記憶がなくなっている事実に気づかされて、気が滅入る。鵺野先生とおしゃべりしていたら楽になるかと思ったのに、逆に沈んでいく一方。あんまりな低調っぷりにいつもより早く切り上げてもらった。明日はきっと病院にいって見てもらうという約束を、去り際に先生は念を押していった。
玄関のところでお別れし、足音が聞こえなくなるのを確認したあたりが限界だった。閉めたドアに背中をもたれさせてその場にしゃがみこむ。
だめ。
いけない。
ここ数日抑えていた欲求が、鵺野先生に会うことによって刺激された。酒やたばこ、あるいは薬を欲しがる中毒者のように私は「食べたい」と何度も何度も呟いた。
会わなければ、よかった。
顔を見るまでは会いたくて会いたくて堪らなかったのに、会ってしまえば何故か苦しく、離れてしまうと飢餓感が何倍にもふくれあがる。
「……***が、欲しい」
ああ、こんなにも食欲をそそられるのに、食べてはいけないだなんてたまらない。
***が食べたい。できればチカラの強い***を。
眠るたび、夢を見る度に猛烈な食欲、飢餓感に襲われる。それははしたないなんてものじゃなく、身をよじる狂いそうなほどの欲求。
だめ、つまらない事を考えないように寝てしまおう。一刻も早く、速やかに。
ふらふらと着替えてベッドに潜り込むと、思いのほか早々と睡魔は訪れた。理性が解き放たれた夢の中で、その激しい欲求に促され、行きずりの男を食べた。
…どことなく、鵺野先生に似てる人だった。