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雲雀さんが2人

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ああ、愛しの先生様。
 今ほど貴方の教えを請いたいと思ったことはありません。


 沢田綱吉は今、四半世紀も生きていない、化石のような人ばかりのマフィア界ではまだほんの赤ん坊ほどの短い人生の中で、かつてない危機に直面していた。

 ソファの上に引き倒された身体の上、腰骨の上あたりに肘をついて可愛らしく小首を傾げた、雲雀恭弥が乗っているのだ。
 それだけならまだいい。
 いくら恐ろしすぎる先輩でも、付き合いならもう10年程。
 顔を見ればどうやら、今はとても機嫌がいいという事はわかるから、琴線に触れないように立ちまわればいいだけだ。
 でも、今回ばかりはどうすることが最善なのか、頭の弱い沢田綱吉にはさっぱりだった。

「雲雀さん……む、胸が、当たってます」
 勇気を出して訴えれば、雲雀はくすりと、それはもう妖艶に微笑んで下さった。

 雲雀の気まぐれで、綱吉の上に乗られる事もストレス発散相手にボコボコにされる事もよくあるから、まあいい。(すっげーむなしいけど)
 でも、それでも今の体制は、大変よろしくないと思う。
 腰の位置に肘をつかれてしまうと、ちょうどあれの上に胸が当たってしまう訳で。
 しかも動きやすさばっかり重視して服を選ぶような人だから、今もショートパンツに黒のタンクトップなんて格好な訳で。
 それで肘なんかつかれると、胸の谷間がダイレクトに見えてしまったり、する。
 いい眺めではあるんだけど、もうこれ以上ないほど素敵な眺めなんだけどでも、目の前の人にどう思われてるかはわからないけど、一応男のはしくれくらいにはいる綱吉とすると、とても辛い。
 この人相手に手を出そうなんて間違っても思わないが(絶対返り討ち、へたすりゃ俺の息子が使い物にならなくなっちまう)それでも思わずごくりと喉を鳴らしたら、頭のてっぺんに思いっきり衝撃が走った。

「いってー!!」
「僕以外にさかってるなんていい度胸じゃない」
 目の前の絶景に気を取られ過ぎて油断していた所の衝撃に、綱吉が涙目で顔を上げれば、ソファの背もたれの向こう。何時もどおり真っ黒なスーツを着込んでトンファーを持った雲雀さんが立っていた。
 この人、トンファーで殴りやがったな……。
「そんな事言ったって、男として仕方がないじゃないですか」
「ふん、僕はそんなの見ても何も感じないけど」
 そりゃそうでしょうとも!
 自分と同じ顔した女性相手にさかるはずがないだろ。
「沢田は、僕よりもそんな女がいいってわけ?」
 後ろから細い指した綺麗な手が伸びて来て、首筋から顎をするりと撫でられる。
 ぶるりと震えて、それを払うように顔を振っていたら、見てくれだけはすこぶる上等な雲雀の顔がすぐ近くに来ていて、綱吉はだらしなくもへにゃりと笑ってしまった。

 だが顎に手を添えられて、もうちょっとで唇がくっつくと思ったら、下半身に衝撃が走って思いっきり身体が跳ねた。
 見れば、むすりと顔を顰めた雲雀が、肘で大事な部分をぐりぐりとやっている。

「ちょっと雲雀さん、そこぐりぐりしないでください!」
 胸当たってるし絶景だし、若い男はあんたが思ってる以上に我慢が足りないんですから。
 反応でもしようものならどうなってしまうかわからないと必死になる綱吉に、雲雀はやめようとするそ振りすら見せず、すっぱりと切り捨てた。
「やだ」
「ホント勘弁してください! あんた女の子でしょ」
 慌てて身体を起して、大事な息子を守ろうとしたら、手を添えられたままだった顎をきつく押さえられて、ぐえっと声が出た。

「ちょっと君、いい加減にしてくれない? なに沢田の上に乗ってるの」
「別に僕が沢田の上に乗ったって問題ないでしょ? 君だってなにキスしようとしてるの」
 美しすぎる、まったく同じ顔をした人のおっかない視線が、綱吉の上でバチバチと火花を散らせている。
「何時までも上に乗ってないで、さっさとどきなよ」
「君こそ空気読んで出て行きな」

 言いあいながらも雲雀の胸は綱吉の上に乗っているし、顎に添えられた手は退けられない。
 言い合いが終わるまで自分はこのままで、下手したら乱闘を始める二人を止めないといけないのかと思えば、綱吉は深々と息を吐いた。

 ああ、愛しの先生様。
 今ほど貴方の教えを請いたいと思ったことはありません。


「綱吉は僕とこれならどっちがいいの? まさか3Pなんて認めないからね」


 ……ああ、どうか先生様。雲雀恭弥二人に挟まれて、俺はどうしたらいいのか、お願いだから教えてください。
(もしくは今すぐ助けに来て!)
作品名:雲雀さんが2人 作家名:桃沢りく