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FOOLs

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水滴が落ちる。
静かな暗い地下の部屋で二人は対峙していた。
重い鉄の塊を手に、雲雀は目の前の男を見た。
骸は薄暗く、どこか淡い笑みを浮かべている
無言の儘、雲雀は自らの手に視線を落とした。
そこには一丁の拳銃が握られている。

『せめてもの幕引きを君に。』

そう言って渡された銃を暫くの間見つめてから、雲雀は骸に向き直る。
向けられた銃口に骸は満足そうな笑みを浮かべた。
億劫げに雲雀は口を開く。

「君は、本当にこれで満足な訳」

淡々と、何の感情の揺らぎも無い声が静かな部屋にきんと響いた。
この段階になってもなお何の動揺も痛痒も見せない。
その事実に骸は小さく微笑んだ。
だからこそ彼はこの手段に縋ったのだから。
ひたすらに続く苦痛を断つ、その最後を彼に彩られるならどんなに幸せだろう。

「ええ」

心からそう思って、おざなりな問いかけに首肯する。
それを受けても、雲雀の表情は凪いだまま変わらなかった。

「そう」

短く一言で返すとそれ以上何も言うことは何もない、とばかりに雲雀は引き金を絞る。
だが、銃弾が発射される寸前でそれは止められた。
ぴたりと眉間に照準が合わされていた銃口が、おろされる。
え、と骸の唇から声が漏れた。

雲雀が銃を降ろしたのではなく意図的に、照準を下にずらしたのだと骸が悟った瞬間。

静寂を砕いて銃声が響く。
骸の胸に、ばっと紅い花が咲いた。
彼の中心、心臓を狙い違わず穿ったその鉛の玉は完全にそこを破壊した。
骸が、その場に崩れ落ちる。
酸素の供給が途切れ急速に薄れゆく骸の意識の中で、静かな静かな声が聞こえた。

「それじゃあ、精々後悔していくんだね」

おなじものを抱いて僕もいく。

落とされた声に、その揺らぎに骸は目を見開く。
闇に飲み込まれていく視界に、銃口から白い硝煙を吐き出す銃がもう一度持ち上がるのが写った。
骸は唖然としてその光景を見る。
雲雀の、今まで骸の前では揺れることすら無かった無表情が崩れている。
ぎゅっと眉を寄せ、口を噛み締めて骸を見ている彼はまるで、泣いている様だった。

そんな、
何故?

最期の言葉は声にならず、血の泡となって空気に消えた。

もはや物言わぬ、その名が現すままの物体に成り下がった骸を見下ろし、
雲雀は自嘲的な、歪んだ笑みを浮かべた。

愚かだったのはどちらだろうか。

最期まで気付かなかった彼か。
最後まで気付かせなかった自分か。

答えは永遠に出ない。
彼は死んでも輪廻し巡るだけと言っていたが雲雀はそんなもの端から信じていない。
それが真実だったとしても結局、今の雲雀には関わりの無いことだ。
だから、これで最後。

結局、どちらにせよ己という存在に残されていた選択はこれだけだと、雲雀は思っていた。

骸に自らが抱いていた感情を気付かせずに続けていればこの結末があるのは見えていたし、
(君が届かない、受け入れられない想いに日々追いつめられていったのは知っていた)

骸を受け入れてしまえば、今まで築き上げてきた自分が粉々に砕けるだろう事は解っていた。
(変化していく自分を拒絶という形で否定し続ける事が出来なくなったら、追いつめられるのは僕だった)

誰かに依存する、頼る、許容する。
そんな自分を受け入れられない。
雲雀恭弥という存在は揺らがぬから存在していられる。
それを根本的に揺らがす骸の存在は、もはや雲雀にとっては死と同義語だった。

二人の関係は始まる前から、終わっていたのだ。
だから、何も始まらないまま見える形の終わりが訪れたからと言って何も感じる必要は無い。
そう自分に言い聞かせなければ今にも叫び出しそうな自分を、何よりも雲雀は嫌悪した。
雲雀がこんな風になってしまったのは間違いなく骸が原因で、
それを悟っていながら自らの変化を頑なに悟らせなかったのは雲雀だ。

骸は最期まで雲雀の本当の意志に気付かなかった。
そうしたのは雲雀なのに、最後の最後で雲雀はその本音を僅かに露呈した。
最初から、骸を救ってやるつもりなど雲雀にはなかったから。

それでも、なくしてしまえば終わりだと言うこともまた、解っていたのだ。
二人の最期を、一人だけの自殺と思われるのは癪だった、のかもしれない。

今となってはもう全てがどうでも良い事だった。
虚ろな眼差しで屍となった男を見下ろすと、雲雀はこめかみに押しつけた拳銃の引き金に指をかける。

それが躊躇いもなく引かれるのと同時に。
ぽたり、水滴が地面に落ちて落ちた。

虚ろな空間に響く銃声。


果たして、愚かだったのはどちらだったのだろうか。


作品名:FOOLs 作家名:せいは