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小細工承ります

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鉢屋の机の所へ女子がキャッキャと集っているので、不破はそれはもう随分と躊躇したけれど結局頼まれ物だしと勇気を出して近寄る事にした。反対向きに置いた前の席へ座った女子は鉢屋に手を取られて、けれど別に色恋沙汰と言うわけではなく爪を塗らせているのだった。ハイ出来た後は毎日トップコートを塗ってくれれば一週間くらいはまあ見栄え良くもつよ、と生活指導に目を付けられない程度にかわいいシロップを作った鉢屋は言って少女らしい白い手を離してやる。一回五百円で程よく可愛く無難に、失敗してもご愛嬌みたいな素人ネイルサロンは結構人気があって、先月から不破の図書当番の日以外にも営業をはじめた。鉢屋の通学鞄にいつも入っている黒い少し艶のあるポーチ、それに収納されたマニキュアは今は他の道具と共に柔らかな布の上に広げられている。すごく近寄りづらくて不破はなんかもう挫けそうだ。あっ不破くん見て見てェーと十指を広げてくる女子にうん、かわいいねと返すけれどそれも実はギリギリで爪先のピンク色のきらめきが男を引っ掛ける毒牙にしか見えない。もう無理マジ無理ゼッタイ爪とか塗らない子と付き合おう、と違いの解らない様々なニュアンスのピンクの小瓶の並ぶ様を見て思う。頼まれ物は白の小さなラインストーンだった。次誰?と鉢屋が問うまでもなく次の少女が500円玉を握って待って居るようだ。ごめんなさい早く来すぎちゃって、という彼女に大丈夫大丈夫と外交用の笑みで招く鉢屋のその指が長いなと、不破は隣の席で肉まんを食べながら思う。中間試験が近い。

「見るたび思うけど、しかしすごいね」
「暇つぶしにはじめた割りに結構予約もあるんだ。私は人気者だな」
「お前もだけど、彼女たち。なんか僕が見ていると悪いような気がしてしまうよ」
楽屋みたいなものだろうと不破は気まずそうな顔をする。
「別に大丈夫だろう、電車内で化粧をする輩も居るご時勢さ。君なんかそういうの慣れてるかと思っていたよ」
「アレはアレでなんか、別だよ」
鉢屋も親しくしている、上三人の姉の事を不破は思う。
「まあ、なんかおいしい物でも食べて帰ろう」
「えっそれ使っちゃうのかい」
「とっといてもアレだし、君もお使いしてくれたから。ホラなんだか食べたいって昼間言ってた、それへ行こう」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ!そういうのやめろって言ってるだろう!」
「つもりも何も、私がしたいから言うんだ。ごらん、結構あるぞ」
笑って振り返って、間違えた事に鉢屋は気付く。不破は少し所じゃなく怒っているようで頑なに立ち止まって、こうなると動かすのがすごく難しい事を鉢屋は良く知っていた。
「どうした雷蔵?早く行こう」
「三郎、僕そう言うのやめろって言ったよな」
「こないだの事かい?確かに急に現金を渡したりして悪かったさ、だから今日はこうして、ああ寒くなるから今年のセーターを買おうか」
「そう言う事じゃないんだよ!」
「雷蔵?」
「そう言う事じゃないよ三郎、お前ちっとも解ってないね」
「解ってるよ、解ってるけど私がしたいんだわがままなんだ。ごめんもう言わない、それから君の委員会のない日はやっぱりやめる事にする」
「うん」

そしてやがて日もくれた駅までの道を、二人でそっと手をつないで歩いてまっすぐ帰った。指が長くてすこしひんやりした鉢屋の手を取りながら不破は、キラキラした爪先の少女の白い手と鉢屋の黒いポーチの事を考える。不特定多数の少女たちの武器は少し前を歩く男の鞄の中で眠り、鉢屋の武器は不破の手の中でひんやりとし続けていた。
作品名:小細工承ります 作家名:あおい