小細工承ります
「見るたび思うけど、しかしすごいね」
「暇つぶしにはじめた割りに結構予約もあるんだ。私は人気者だな」
「お前もだけど、彼女たち。なんか僕が見ていると悪いような気がしてしまうよ」
楽屋みたいなものだろうと不破は気まずそうな顔をする。
「別に大丈夫だろう、電車内で化粧をする輩も居るご時勢さ。君なんかそういうの慣れてるかと思っていたよ」
「アレはアレでなんか、別だよ」
鉢屋も親しくしている、上三人の姉の事を不破は思う。
「まあ、なんかおいしい物でも食べて帰ろう」
「えっそれ使っちゃうのかい」
「とっといてもアレだし、君もお使いしてくれたから。ホラなんだか食べたいって昼間言ってた、それへ行こう」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ!そういうのやめろって言ってるだろう!」
「つもりも何も、私がしたいから言うんだ。ごらん、結構あるぞ」
笑って振り返って、間違えた事に鉢屋は気付く。不破は少し所じゃなく怒っているようで頑なに立ち止まって、こうなると動かすのがすごく難しい事を鉢屋は良く知っていた。
「どうした雷蔵?早く行こう」
「三郎、僕そう言うのやめろって言ったよな」
「こないだの事かい?確かに急に現金を渡したりして悪かったさ、だから今日はこうして、ああ寒くなるから今年のセーターを買おうか」
「そう言う事じゃないんだよ!」
「雷蔵?」
「そう言う事じゃないよ三郎、お前ちっとも解ってないね」
「解ってるよ、解ってるけど私がしたいんだわがままなんだ。ごめんもう言わない、それから君の委員会のない日はやっぱりやめる事にする」
「うん」
そしてやがて日もくれた駅までの道を、二人でそっと手をつないで歩いてまっすぐ帰った。指が長くてすこしひんやりした鉢屋の手を取りながら不破は、キラキラした爪先の少女の白い手と鉢屋の黒いポーチの事を考える。不特定多数の少女たちの武器は少し前を歩く男の鞄の中で眠り、鉢屋の武器は不破の手の中でひんやりとし続けていた。