特等席
小さいころから一緒で、幼馴染のようなものなのだろう。自分と男鹿は。
互いに対する距離が近く、他人であるという認識が低い。特に男鹿なんて、勝手に古市の部屋に居座るし古市の持ち物を自分の物だと思っているのではないだろうか。
ただでさえ傍若無人な男が、さらに古市に対しては容赦がない。腹が立てば手を出すのは誰相手だろうと古市だろうと例外はなく、幼馴染特権なんてものは、その場の感情に任せて動く男鹿には期待していない。
しかし、かといって古市が一方的な我慢を強いられ成り立っている関係というわけではない。古市とて男鹿に対して遠慮などしないし、取り繕うようなこともしない。
それでも、破綻することなくともに居続けることが出来るということは、どんな相手と行動するよりも気安く自分を譲らずとも互いに合致するからだ。
そんな風に二人でいることがあんまりにも楽であったから、自分たちは他にろくに友人が出来なかった。一番を知ってしまっているのに、わざわざランクをさげて二番を探す必要がなかったのだ。自分と男鹿の間に割って入ろうとするには、かなりの根性がいるだろうなと、他人事のように思っていた。
「本当、ある意味尊敬するわ…。」
古市自身はともかく、男鹿を恐れて二人に近付いてくる者はもともと少なかった。その数少ない中から、さらにあの思い立ったが吉日男である男鹿に考えて行動させるような輩が出てくるとは。
魔王を高校生が育てるような世の中だ。まさに一寸先は闇。何が起こるかわからない。
男鹿くんに憧れてと近付いて来てからの、三木の一本気というか粘着質というか多少ストーカー染みたあれやこれやを記憶から掘り返す。
あれぐらいやらなければ自分たちの関係に交じれはしなかったのかと、客観的に見て少し気持ち悪くなった。三木がではなく、自分たちが、だ。
しかもそれに少しばかりの優越感を抱くのだから、手に負えない。
今も、一緒に帰宅をという三木の申し出てを即座に断る男鹿の、足が向かっている先が自分であることに、気分が良くなる。
あの男鹿に関することで、得意になるようなことなど欠片だってないのに、三木が関わってくると男鹿だけではなく自分もらしくなくなるようだ。
それとも、もしかして自分は危機感を覚えていたのだろうか。
男鹿を動かした三木に、三木に動かされた男鹿に、置いていかれるような、そんな。
（まさか、な。）
当たり前になりすぎたことが当たり前でなくなるには、まだ高校生である自分たちにははやいのだから、と男鹿がこちらに辿り着くのを立ち尽くし待った。