青安(せいあん)
良くて、地主の息子という肩書きくらいだ。
ただ、そんな日常が嫌で家を飛び出し、非日常を好み全く知らぬ土地に来て、貿易商などを始めて・・・。
仲間たちを募って、集めて、ようやく仕事が軌道に乗り始めたある日のこと。
「見つけた」
ふと、僕の目の前にとても鮮やかな金髪の髪の青年が立っていた。
僕は驚きで声も出せず、目の前の青年を見つめ続ける。
ここが3階の建物の僕の自室だとか、警備の者はどうしたとか、そんなこと、彼の髪色を見て一瞬ですべてが吹き飛んだ。
『金髪』
それが示すのはただ一つ。目の前にいるのは人ならざる者。
青年は一歩、また一歩と近づき照れくさそうに笑った。
「貴方が我が主・・・主上」
それが、僕と彼、静雄さんの出会い。
「主上・・・」
「おや、静雄さん。・・・またそんな顔をして」
僕は暗い顔をしている半身の頬をそっと触ろうとして、止めた。
宙に浮いた手を握りしめ、腕をおろす。
「主上・・・」
「ごめんね、静雄さん。今の僕は汚れているから君に触ることができない」
「っ」
苦痛に顔をゆがめる静雄さんに僕は苦笑した。ごめんなさい、と頭を下げる。
国を統治すると言うことは、玉座を守るためには血を流さずにはいられない。
僕が直接手を下さなくとも、僕が命令し殺させればその汚れは僕に来る。
今の僕の手は血で汚れ、麒麟に触れることができない。
「ごめんね、静雄さん。でも、でも・・・あともう少しだから」
「・・・俺は、たとえ何があろうとも主上の見方だから」
死臭で酷い臭いがするであろう僕のそばに、それでもいてくれようとしてくれる麒麟に僕は涙ぐみそうになる。
ありがとう、と僕は静雄さんに笑った。
「いざやぁぁぁぁっ」
「あははは!なぁに?シズちゃんまた怒って?いやだなぁこれだから筋肉莫迦は!」
「まちやがれぇぇぇっ」
今日も、麒麟としてはあるまじき言葉というなの暴言を吐きながら、静雄さんは臨也さんを追いかけている。
あぁ、平和だなぁ。
「いやいや、帝人。あれをみて平和とかないから!」
「あれ?今僕口に出してた?」
「・・・顔がそう物語っておりました」
「おっと。いけないいけない」
僕は隣国の麒麟に笑いかけて、未だ追いかけっこをしている僕の半身と隣国の王に声をかけた。
「二人ともそろそろお茶にしませんか-?」
僕のかけ声に、同時にぴたりと止まる二人。そしてまた暴言をお互いに吐きながらこちらに向かってきた。
「それじゃあお茶の用意をお願いね」
「御意」
近くにいた天官にそう声をかけると、僕は疲れ切った顔をしている麒麟に笑いかけた。
「正臣、そんな顔してたらだめだよ?」
「・・・何で俺、あんな人を王に選んじゃったんだろう」
泣き真似をしている正臣に僕は軽く背中をたたいてやった。
たしかに、いつもあのテンションだとそりゃぁそうなるよね。うん、正臣ドンマイ。
「しょうがないんでしょ?王って天帝が選んでそれを君たちに伝えているんだから」
「まぁ、そうなんだけどよ」
正臣がこうやって文句を言っているが、心からの言葉ではないことぐらい解っている。
麒麟は王に逆らえない。逆らわない。王の傍にあることこそが、彼らの幸せ。
たとえ、それが王を嫌っていたとしても傍にあることが心理なのだ、と僕の半身は言っていた。
「帝人くーん!今日のお茶はなぁに?」
「いい加減にしろ!臨也!主上はお前より治世が上なんだぞ!」
がみがみと言い合いながら、席に着く二人に僕は苦笑する。
「別に、僕は気にしてませんよ」
「いいやだめだ主上!こいつはそう言うとつけ上がるからな!」
静雄さんは机をたたいて、怒りをあらわにしている。
麒麟にとって王を蔑ろにされるのは気にくわないらしい。まぁ、臨也さんだからなのかもしれない。
「あ、来た来た!」
「正臣は本当に甘露が好きだよね」
運ばれてきた甘露に早速手を出す正臣に僕は笑う。
「静雄さんもどうぞ」
「お、おう」
静雄さんも甘露が好きなので、麒麟って甘い物が好きなのかなぁと思う。
幸せそうにほおばる姿を見て、僕の心もほかほかしてくる。
「帝人くん、今日のお茶って春早茶?」
「流石ですね臨也さん。えぇ、旬のお茶を使ってみました。春の訪れを感じるでしょう」
臨也さんも笑いながら、お茶を飲む。
僕はこの時間がとても好きだ。みんながこうして笑っていられる時間が。
僕もお茶を口に含む。あぁ、幸せ。
「また、こうして皆さんでお茶にしましょうね」
「おう!また呼んでくれ帝人!」
「ふふ~。今度は俺の国の特産物を持ってくるよ」
「臨也は来るな。お前は来るな」
幸せな、のんびりとした時間。いつまででもこの時間が続きますように。
青安264年、春早の日常。