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ふうりっち
ふうりっち
novelistID. 16162
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=4.0= プロイセン・ブルー(仮)

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ドイツが振り帰るとそこには見知らぬ--いや、夢の中で会話した覚えのある、白き法衣を纏った青年が佇んでいた。

「お前…この部屋にどうやって?」

 まずドイツの脳裡を過ぎったのは疑念。そして、目の前の相手を警戒するように眇める蒼き瞳。
 ふらつく身体ながらも、全身に緊張を漲らせ、相手の動向を伺いつつ次なる手立てを考える。
 相手を警戒しておく必要があった。この部屋はもとより、兄と暮らすこの教会を囲むようにある一定区間は聖域とされ、目には視えない結界領域が施されていた。それが在るゆえ、ここへの進入は極限られた特殊な力を持つ者だけが許され、他者の介入は拒まれてきた。それなのに、この青年は領域内の特殊な呪術など意にも介さず、ドイツの前に佇んでいる。
 もしや結界が一部が綻んでいるのかもしれない。
 そんな愚問が脳裡を掠めるが、それを否定するようにかぶりを振る。そのようなことある訳がない。もしも、それが現実だとすれば兄が黙っているはずがない。多様な能力に長けたプロセインが結界の綻びに気づかないはずなどないからだ。ならば目の前の青年が壊したのか。

「お前…呪術師なのか?」

 こちらを見つめ、ゆるく笑う青年を視界に捕らえながらドイツは疑問をぶつけた。
 その口調は確信を秘めている。この部屋まで難なく侵入してきたこの若者を民間人とは到底思えない。ならばドイツが危惧するように、呪術師か魔道師だと思うほうが妥当といえる。

「私は呪術師ではありません。強いて言うなら魔導師…ですかね。遠い異国ジパングから来ました」

 言葉を選びながらふわりと笑えば、それだけで警戒心を解かしてしまうほど青年の表情は朗らかであった。恐らくこんな風に出会っていなければ、ドイツとは良き友として付き合えただろう。それほど、目の前の魔導師に危機感を感じさせない。しかも兄と極少人数だけの中で育ったドイツにとって、外界から訪れた人との接触は初めてであったこともあり、胸の奥では危機感と同時に高揚感も綯い交ぜになり、判断を鈍らせた。
 その一瞬を突かれた。

「そして、若き王…貴方様をお迎えにあがりました」
「何を急に…っ!」

 悲鳴を上げる暇などなかった。
 おそらく異国の呪術だろうか、一瞬にして視界を奪われ、目に視えない力によって身体の自由も奪われてしまい、身動きすらできない状況に追い込まれてしまう。
 しかし、この程度で屈するドイツではない。
 視界や肉体の自由を奪われようとも、抵抗とばかりに扉がある方向へ向かってその身を捩り逃げようと試みるも、大きな音と共に身体が床を打つ。受身がとれなかった身体を固い床に打ちつけたことで節々が痛んだ。それでも虫が地を這うように、ドイツは関節を動かし足掻き続けた。

「そのように暴れては、無駄に怪我をしますよ。大人しくしてください」

 柔らかな口調ではあるが、相手を労わるわりにどこか冷えた印象を受ける。恐らく、これが彼の本性なのかもしれない。
 ゆっくりと近づいてくる気配に、ドイツは逃げ切れない苛立ちを募らせた。
 このまま相手の手中に落ちるつもりはないが、動きを封じられては太刀打ちは不可能だった。さぁどうする。自問自答する間に、青年は足を止めた。ドイツを見下ろすような位置で立ち止まると、軽く呼吸を整える。

「本来の姿へお戻りください、若き王ッ!」

 魔導師と名乗っただけあり青年が両手を掲げると、床の上でドイツの肉体に変貌が起きた。



 カシャッと、白磁のカップがテーブルの上に乗るソーサーとぶつかると、ひどく耳障りな音が響いた。

「…オ、オーストリアさんッ!」

 悲痛な声を上げ、ハンガリーが椅子から腰を浮かす。その声に女性物の給仕服を着たちびたりあがテーブルに駆け寄ってくるも、目の前の光景に息を呑む。

「二人とも大丈夫です。心配ありませんよ」

 動揺を隠せない二人の横目に、いつもと変わらず涼やかな表情を浮かべるオーストリアは、慌てた様子は見せず落ち着いて対応してみせた。

「でも…!」

 先ほどまでカップを持っていた左手からは紅蓮の焔が立ち上るのに、オーストリアはいつもと変わらぬ雰囲気を醸し出す。それがハンガリーには理解できない。いやいや、と子供のようにかぶりを振り、間近で不安げに表情を曇らせていた。
 そんな二人の世話役であるちびたりあも、胸の前で握り締めてた両手を小さく震わせながら、異変の中に身を置く主人の様子をじっと見つめながら言葉をなくしていた。

「どうやら、封印が壊れたようですね」

 思い当たる節があるのか、オーストリアは意味深な言葉を口にするとすぐに立ち上がった。

「二人とも部屋の隅に移動して下さい。これから門を開けます…」

 消えぬことのない紅蓮の焔に左手を灼かれたまま、それでもオーストリアは苦痛を見せず、次の行動に移った。
「はい、オーストリアさん」
「分かりました」

 ハンガリーが不承不承なのは見た目からも分かるが、オーストリアには時間がなかった。封印を破ったのか、破られたのか---それが定かでない以上、一刻も早く対処する必要があったからだ。