君の音
学生時代
オリキャラ参戦
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ちょうど僕の座った席の日当たりがよかった。
ちょうど退屈な講義で筆も進まない時だった。
ちょうど、ちょうど隣に座ったのが君だった。
「…アリス、寝てんのか?」
小声で問われて、返事を返さなかったのはただの気紛れだった。窓際に座り窓を向いて眠っている(と火村は思っている)僕の顔は火村には見えない。
ぬくぬくとガラス越しに注ぐ日の光が異様に心地よくて、僕は半ば意識を飛ばしそうにしながら隣に座っている火村の反応を待った。
「講義中に寝るなよなぁ」
呆れたような声が後ろから聞こえた。確か僕の後ろに座ったのは――藤池だったか。間延びした声に口元を緩めそうになるものの、ここで笑ったりしてしまうとまだ眠っていない事がバレてしまう。
バレるからなんなんだという話ではあるが、なんだか起きている時より面白い話が出てきそうな気がしたのだ。
火村も藤池も、どうやら真面目に講義を聞くつもりは毛頭ないらしくお互い教授にバレない程度に体を近付けたのが雰囲気でわかった。
「そのいーい声で子守唄でも歌ってやったらぁ?」
「講義中だぞ?」
講義中じゃなかったら歌ってくれたのだろうか?
「まぁー、アリスの事だから後でノートとか借りに来るんじゃねーのぉ?」
「抜かりはないさ」
ありがとう火村大明神様。
「なんで起こさねーわけぇ?」
「起こす必要なんかないだろう?」
………ん?
「なぁ、アリス」
なんという事だ。
一世一代の僕の狸寝入りはあっさりと火村に見破られてしまっていたのだ。僕より大きな火村の手が頭へ乗せられ髪の毛をさらさらと梳いている、一気に体温が上昇して心地よかった日差しも真夏の攻撃的な日差しに変わってしまったかのように感じられた。
早く起きろと言わんばかりに火村の手が叩いてくる。だんだん力が強くなっていくようだったので、仕方なく、本当に仕方なく僕は顔をあげた。
「…なんやねん」
「いつ狸寝入りなんて技を覚えたんだ?」
「寝とったんを起こしたんは君じゃボケぇ」
「関西弁は怖いな」
全くそんな風に思っていないように聞こえる火村の声を聞き流して、僕は机に突っ伏した。
「藤池ー、ノートぉー」
「火村大センセが取ってくれてるってよー」
「わーお流石火村大明神様やー」
「お供え物しとけよアリスー」
「そんなん俺の体で充分やろ」
「ぶほっ!」
「火村?」
「ヒムッツリだからアリス離れときなぁ」
「……藤池もうお前泊めないからな」
「火村大明神様のいけずっ」
「なんやねんほんまに…」
僅かに火村の頬が赤く見えた事に関して言及しようとしたら、僕達三人はまとめて教授からお叱りの言葉をいただいたのだった。
ちょうどが揃うと、僕は凄く幸せだ。