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エナ

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初めて触れた女の子の体は柔らかくて、同じ生き物とは思えなかったくらい。
初めての場所にラブホテルを選んだのは彼女だった。いつも通りの日曜日のデート。散歩をして、ゲームセンターに行って、ファーストフード店で食事をして、その後夕暮れの公園でキスをした。そのまま、自宅じゃ恥ずかしいから、と手を引いて言われればいつの間にかベッドの上で彼女は半分裸になっている。恋人同士の流れというものは不思議なものだ。
僕が観察をするみたいな気持ちでその子の体を撫でていると、目の前の女の子は「恥ずかしい。」と言った。もう下着を外してあるふくよかなその胸に手を伸ばせば、彼女のまぶたが微かに動く。甘えたような態度をしているから、きっとこうすることが良い事なんだと確信して、僕はそのまま乳房に口付けた。まるでお母さんの乳を吸っている赤ちゃんみたいだな、なんて思いながら、ちょっとだけ乳首を吸い上げてみる。もちろん甘い味なんてするはずもなく、ただその行為にその子は嬌声を上げた。そっとパンツの方に片手を伸ばして、その一枚の布を下ろす。陰毛の奥の割れ目にそって指を這わせれば、彼女は緩く首を振った。嫌がっているわけではない。気持ちが良いけれど恥ずかしいからそうしてしまうのだ。それは分かる。なぜかって、僕がトランクスくんにするような態度の生き写しだ。………。

「どうしたの?」

僕が急に手や口の動きを止めてしまったから、横たわったままで裸の胸を片腕で隠しながらその子は僕に尋ねた。桃色になった頬と濡れた陰部が誘っている。早くしてとは言えない彼女は、その代わりに僕の片手を取って頬に当てた。それさえ分かってしまった僕はもはや、正直に今の自分の胸の内を告白するしか道は無かった。

「ごめん。君のことは抱けない。」

初めて僕の彼女となって、初めて僕が抱こうとしていた女の子に、これまた生まれて初めて女の子から思いっきり頬にビンタされてしまうのは、それから数分後の話である。

次の日の学校に、彼女は来なかった。同じクラスの斜め右方向にある空席を見つめて、僕は本当に悪い事をしてしまったと思った。だけど僕が彼女に告げたことは、あくまで本当のことだった。彼女のことはきちんと好きだったし、付き合っていて楽しかったけれど、そればかりは僕にはどうしようもなかった。明日ちゃんと謝ろう。「別れる!」という台詞は既に昨日聞いていたけれど。…自業自得というやつだ。そう心の中で自分を戒めていると昼休みのチャイムが鳴った。物悲しい気分を追い払うためにも外の空気が吸いたくなって、友達の誘いを断り、一人で立ち入り禁止となっている屋上へと向かった。

屋上へ続くドアは封鎖されている。だから僕はドアに一番近い窓を開けてそこから飛び上がった。周りに人がいないことを確認するのを忘れがちで色んな人によく怒られるけれど、今日はきちんと確認した。屋上に降り立っても相変わらず人気は無かった。だけど、ひとつ伸びをして、そのまま後ろを振り向くとそこにはトランクスくんが座っていた。僕からしてみれば彼の突然の登場に驚いたのだけれど、トランクスくんは飛んでくる僕を見ていたわけで、大して驚いた様子も無くこちらを見ている。

「いたなら声かけてくれれば良いのに。」

トランクスくんと顔を合わせるのは、実は久しぶりだった。彼のほうが一つ年上だけど、それはあまり関係が無い。ただなんとなく最近のトランクスくんはそっけなくて、ここ数ヶ月は一緒に帰ることさえ無かった。

「声かける前にお前が振り向いたんだろ。」

立ち上がって埃を払いながら言うトランクスくんは、やはりというべきかどこかベジータさんに似ていた。彼は高校生になって急に背が伸びた。今年になって僕も高校生になり、ようやく背は伸びてきたけれど、まだまだトランクスくんには追いつかない。こうして向かい合って立ってみるとそれがよく分かった。

「もうお昼食べたの?」
「まだだけど。」
「じゃあ一緒に食べようよ。」

僕がお母さんが作ってくれたお弁当を目の前に差し出しながら言うと、トランクスくんはちょっとだけ笑った。僕のお弁当箱は大きいから、そのことが可笑しいらしい。トランクスくんだって沢山食べるくせに、いつになっても僕のお弁当箱を見て笑う。なんとなく僕もつられて笑う。てっきりこのまま一緒に食べることになると確信したのに、僕が腰を下ろすとトランクスくんは空へ飛び上がってしまった。

「あれ…行っちゃうの?」
「お前は彼女と食えばいいだろ。」

顔はまだ微笑しているけれど、どこか寂しそうにトランクスくんは言う。じゃあな、とそのまま窓のほうへ向かってしまう背中に「もう彼女いないよ!昨日別れた!」と叫ぶ。聞こえたのかどうかは分からないけれど、そのまま姿は見えなくなってしまった。仕方なく僕は一人でお弁当を食べ始めた。食べながら考える。さっきの彼の台詞は可笑しい。トランクスくんは分かっているはずだった。舞空術を使えるのはこの学校でトランクスくんと僕だけ。封鎖された屋上で会うことが出来るのは、いつだって僕ら二人だけだった。
作品名:エナ 作家名:サキ