シルビア
ベッドの上でひたすらに喘ぐ僕を見下ろすトランクスくんの目はどこか遠くを見ているみたいだ。水飲みたい、暑い、干からびる。何度も何度も呟いていると、ため息が聞こえてくる。それと同時に、今までタンクトップを捲し上げた僕の胸に口づけたり、半ズボンを下ろし、下着の隙間からしのびこませた手で僕の股間を弄っていた動きは止まった。
トランクスくんはまだ僕の上から退かずに明らかに不満そうな目をしている。
キスを止めた唇は一文字に結ばれて、行き場をなくしたてのひらは仰向けになった状態の僕の頭の両脇にそびえた。下手だとか抵抗とかじゃない、確かに快楽はあった。だけどそれ以上に喉が渇いている。それだけのことだ。
「喉が渇いたよー…。」
むせ返りそうになりながら紡いだ言葉は掠れている。そんな僕の状態を知ってか知らずか、非情にも僕にまたがっている相手は「お前、エロい。」と呟いただけで、決して僕に潤いを与えようとはしない。それどころか今の出来事さえも情事の一部だと言わんばかりに、僕に口付けてくる。
キスは嫌いじゃない。だけど僕が望んでいるのは水分であって、それは到底トランクスくんの唾液なんかじゃ満たされない。目の前の真剣な顔を無視して、のし上がる胸板をぐっと押し返す。ここ数年、力だけなら僕のほうが強いような気がしている。それとも相手が妥協しているのだろうか。数秒の抵抗で離れた唇から垂れた糸が頬に流れる。腕で乱暴に拭うと、思い切ってトランクスくんを押しのけ立ち上がった。
トランクスくんは今のキスで満足したのか(いや、彼の場合まずそれは無いけれど)今度は黙って見過ごしてくれた。ベッドから離れた所に配置されたテーブルに駆け寄り、置いてあったペットボトルのジュースを口内に流し込む。片側の袖がだらりと下がったなさけないタンクトップも、ベルトがめちゃくちゃになった半ズボンも気にならない。炭酸の抜けたソーダが口元から零れた。飲みながらああ、これは確かにちょっとエロい演出になるかもしれないなぁなんて思うのは、多分いつもそんなこと言うトランクスくんのせい。500mlペットボトルに残っていた約半分のジュースを飲み干すと少しは喉の渇きが治まった様な気がした。
空になった容器をゴミ箱へ投げ入れベッドに戻れば、ふて腐れた様子でじっと座っていたトランクスくんにぐっと引き寄せられて頬を舐められる。
「甘い。あんな甘いジュースばっか飲んでたら病気になるぜ。」
特に僕の反論を必要とせずにそのまま本棚の崩壊のごとく僕らはもつれ込む。目を閉じて甘えるみたいに僕の上にいるトランクスくんの髪の毛に指を絡めて、それからそっと撫でた。世話しなく僕の下部を弄る彼の姿は、いつも不思議とどこか可愛らしく感じられる。本当は可愛らしさとは程遠く、獣くさい行為のはずなのに。そんなことを考えていられる余裕があるのも、始まってほんの数分の事なのだけれど。
それにしても今日は喉が渇く。折角先ほど目の前の盛りのついた野犬みたいな友達を振り払ってまでジュースを飲みに行ったというのに、僕の喉は依然として乾燥地帯だった。水が飲みたい。喉元を過ぎずに、そこでずっと止まっているような飲み物が欲しい。けれど、そんなものを飲んだら溺れちゃうな、などとちょっと抜けた事を考えていた僕の思考回路は、トランクスくんの優しくて無骨な指が僕の中に触れた瞬間に停止した。