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ユリイカ

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悟天の短所は素直なところだと思う。そして、素直すぎるせいでどこまでが本音なのかが紛れてしまうというところが短所だ。笑うのも怒るのも泣くのも全て感情のまま。それは十六になったこの年も相変わらずで、俺が一つ年上だからそういう風に感じてしまうのか分からないけれど、俺にはとても子供染みて見えた。しかし俺は決してそういう悟天が嫌いじゃない。むしろ、好きだ。

「悟天、ここだろ?」

俺が良いところを指で掻くように撫ぜれば、悟天は泣くように喘いだ。尚もその箇所を重点的に弄り、更に喉元にキスを落とす。「どうした?言わないと分からないだろ。」と追い討ちをかければ、もう言葉を紡ぐことさえ叶わなくなった悟天が首を縦に振りながら縋り付いてくる。俺が悟天の正直さを好む理由で、分かりやすい例をあげるとすれば、セックスの時だ。気持ち良ければ普段の姿からは想像できないくらい全身で善がる姿は見物だし、一人の男としてこの上ない満足感を得る。変にひねくれた愛情表現をする俺さえも受け入れて赦す悟天は純粋で無垢なままだ。

けれど、もう一つ。俺が嫌う悟天の素直さもまた、同じ時には色濃く浮き上がる。
悟天は一般的な男子に比べると性欲が薄いらしく、俺から誘い掛けない限りは滅多に事に及ばない。それ以外のスキンシップといえば、まるで犬が主人を慕うように俺の後をついてきたり、体全体で喜びや愛情を表現するために抱きついてきたりする程度。
一度悟天に俺とするのは嫌いかどうかと訊いた事がある。すると悟天はまるで好きな食い物について質問されたかのような軽さで「嫌いじゃないよ。」と言った。じゃあ好きか?と訊けば「別に自分からしたいとは思わないけど、トランクスくんが好きならいつでもいいよ。」と答えた。まるで選択権の無い様な返答。全てを俺に委ねたその意見を聞いた時、俺は少し戸惑った。しかし、拒む様子が無いところを見ると本当に”嫌”ではないらしい。だからこそ、悟天が俺を受け入れてくれる度に、心のどこかで安堵する自分がいたのも確かだった。

また、悟天は感じているかそうでないかがはっきりと表に出るのだ。感じている時は構わない。だけど、感じていない時の悟天はまるでその行為に興味が無いかのように表情を変えない。何をしているのかと思えば、俺の顔をじっと見上げている。一度、見るな・と言った事があったけれど、そのときは目を瞑っていた。声すら上げずに無表情でいるその姿は、本当に眠ってしまったのでは、と案じてしまうほどだった。それでも行為が始まって数分もすれば、悟天の体は火照り、全く感じていないという状態ではなくなる。どうやら悟天にはムードや前戯といった色目の必要性がほとんど無いらしい、ということを俺は知った。自然体で感情全てに正直すぎるあまりに仕方が無いことだと理解しつつも、俺にキスをされても服を脱がされても普段通りでいる悟天は、時々何を考えているのか分からなかった。

今日も俺から誘いをかけたために、悟天はうちへ泊まりにきて俺たちはセックスをした。事が済み夜が更けると、情事の後の気だるさがまどろみを誘ったが、俺と悟天は衣類を纏わないままでベッドに寝転んでいた。以前悟天は、二人で裸のままベッドに寝そべっているのが子供の様で好きだと言った。次の日の朝に両親に目撃されるのを懼れている俺としては、早めに服を着てきちんと眠る体制になりたいと思っていたけれど、その言葉を聞いて以来しばしの間はこうしていることが多くなった。俺の右側で横たわっている悟天の顔は、うつぶせているのと、部屋が暗いためにこちらからは見えなかった。

「悟天、起きてるか?」
「うん、起きてる。」

俺が問うとすぐに返答が返ってきて、悟天がこちらに寝返りを打ったのが分かった。暗くて見えないね、と悟天は笑った。手を伸ばして向かい側にいる悟天の髪に触れる。

「お前さ、俺としてる時に感じてない間、ぼーっとして何考えてるんだよ。」

責めるつもりではなかった。ただ単純な好奇心と、自分の中でいつまでも残る悟天のあの瞳の真相を探りたかった。悟天は一度、え?と言ったけれど、そのまま黙っていると、髪を撫でていた俺の手を取ってそのまま俺の方へ寄ってきた。暗闇に慣れてきた中で目と目が合って、悟天の口元の笑みが確かに見えた。

「トランクスくんのことだよ。トランクスくんが僕のこと触ってる時の顔って、すごく真剣でかっこいいんだ。知ってた?」

無邪気に笑うその表情に、再びあの悟天の俺を見る眼が重なる。何かを射抜くような、揺れない表情。言葉にするよりも体で伝える方が得意な俺の気持ちを悟る、その目。
「でもしばらくすると気持ちよくて、トランクスくんの顔、見ていられないんだけどね。」
無意識のうちに抱きしめた悟天の頭に顔を埋めそんな言葉をどこか意識の遠くで聞きながら、俺はまるで遥か頭上から見下ろすように、泣きそうな自分を見つけた。
作品名:ユリイカ 作家名:サキ