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なきたい病気

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今日は一年に一度くらいのペースで定期的に行われる、久しぶりに仲良しのみんなで集まろうという様な趣旨のパーティのある日だった。仲良しのみんな・といってもそれは僕やトランクスくんの前の世代(つまり僕らの親世代)の話で、彼・彼女らの子供である僕たちは、お酒が入って盛り上がっている大人たちになんとなく便乗しているものの、集まっている場所がいつも遊んでいるトランクスくんの家だということもあって、実際は普段とあまり変わらぬスタンスのままだった。毎年のことながら大人たちはとても楽しそうにしている。久しぶりに会って募る話もあるのだろう。僕たちはそんな人々で賑わった広間を抜けて外へと移動していた。トランクスくんが僕に「悟天、外へ出よう。」と言ってきたからだ。
僕とトランクスくんも高校生と社会人になって、しばらくの間会っていなかった。トランクスくんにはカプセルコーポレーション次期社長としての仕事があったし、僕も進路やら何やらでゴタゴタしていて連絡が取れなかったのだ。だけどほんの少しの間会わないだけで僕とトランクスくんの関係が変わってしまうなんて思いもしなかった。だから今日トランクスくんと会った時に、彼が僕をまるで他人を見る様な視線で見ている事に違和感を覚えた。誰も気づいていなかったかもしれないけれど、僕には分かった。そればかりか態度もよそよそしい感じがして、人は社会に出るとこんなに雰囲気が変わってしまうのだろうか、とちょっと肩をすくめたのだけれどもどうやらそういうわけではなかったらしい。

「外は寒いよ。」

トランクスくんに言われるままに玄関先へと出てきたものの、コートも着ないで居るには真冬の夜は思った以上に冷たく感じた。両肩をさすりながら早く中に戻りたい、と目で訴えたけれど、トランクスくんは黙って僕の方を見ているだけだった。身動きひとつしないものだから、僕は寒さで彼が凍ってしまったのではないかと思った。
だけどそんな心配をよそに、トランクスくんは僕に歩み寄ってくるといきなりキスをしてきた。高校生の頃、僕たちはたまにこういう事をしていた。そしてその時はそれがあまりに自然に感じていた。半年振りにされたキスはなんとなく気恥ずかしかったのに、どこか懐かしくてなんだかぼんやりとしてしまった。トランクスくんの唇が離れると、僕は我に返って「こんなところで突然するなんて、びっくりするよ!」と抗議した。昔からトランクスくんは勝手に暴走するんだから・・と非難していると、トランクスくんが僕の言葉を遮って言った。

「俺、お前とはもう会わないよ。」

僕はトランクスくんを非難しているということを見せしめるために手のひらで唇を拭う動作をしていた。けれど彼の一言にそのまま固まってしまう。冬の夜風がびゅうと吹いて、僕の耳を冷たさで麻痺させてゆく。今、なんて言ったの?

「もう会わない。電話もしない。こんな風にどうしても会わざるを得なくなったら、それとなく対応するけど、もう昔みたいに馴れ合ったりしない。それだけ伝えようと思ったんだ。」

今度は僕が銅像みたいに立ち尽くす番だった。トランクスくんが僕に投げかけた言葉がただ反芻する。心なしか目がぼやける。そんな僕を見てトランクスくんは、先に戻ってる・と告げて家の中へと入っていった。トランクスくんの家の自動ドアの閉まる音が耳に響いた。相変わらず風だけが僕に吹き付けて、大きな家の内側からは笑い声や音楽が聴こえてくる。まるで感覚が無いみたいに手足をぶらぶらと動かす。無意味に指を開いたり握り締めたりして、ちょっとだけ俯く。

「意地悪。」

誰に言うつもりでもなく、ただ声に乗せて零す。彼はいつだって自分ひとりで物事を考えて難しくして、僕には結論しか教えてくれない。二人で考えればもっと違う答えもあるはずなのに。僕たちが恋愛感情を持って付き合っていた時も、僕はいつもそう思っていた。初めから自分しか信じていないみたいなトランクスくんを、寂しく思ったこともある。だけど付き合っている間にそんな寂しさも解けていると思っていたのに。頬を伝う涙を右腕で強く拭った。寒さと涙でひりりと痛む瞼の裏側にひたすらに頭に浮かんでくるのは、不思議と先ほどの情景ではなくて、高校生の頃僕に「好きだ。」と言ったトランクスくんだった。
涙を止める事は出来ても、自分が流している涙の本当の理由を僕は知らないままだ。別に嫌いだと言われたわけでもないのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。それでもどこかでは分かっている気がした。トランクスくんが言った言葉は決して嘘でも、冗談でもない。昔を思い返して見上げた星空はおぼろげに光を放っている。夜はまだまだ明けそうに無い。
作品名:なきたい病気 作家名:サキ