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いや

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悟天にキスを拒まれた。唇を寄せようとしたら、悟天のてのひらがそれを制止した。せっかく部屋に二人きりで良いムードだったっていうのにこれじゃ興ざめだ。

「やだ。」
「なんでだよ。今日に限って。」

今まで悟天から俺にキスをしてくることはなくても、俺がしようとするのを拒んだことなんてなかった。しかし今確かにこいつは嫌がっている。拒まれるとますますしたくなって、俺は子供みたいにムキになってみせた。その手をとって口付ける。不思議とそれには無抵抗だった。ちらりと上目で表情を伺うと、相手も俺の出方を伺っている様子だ。その身体を引き寄せて探るように首筋にキスをしてみた。やはり無抵抗。数秒間キスを続けても全く嫌がるそぶりをみせない。それならば、と上へ顔を移すと、やはり手で俺を押しのけた。

「なんだ、唇が嫌なのか。口内炎でも出来た?」
「違うけど。いやなものは、嫌。」

あまりに頑ななのが少し気にくわなくて、その言葉を無視して詰め寄ると、「無理やりしたら僕帰るから。」と言い放たれる。久しぶりに二人で会えたっていうのにそれはあんまりだ。まだ悟天が部屋に入って数十分も経ってない。(事を起こすのが性急すぎたのだろうか。)それなのにそんなことを引き合いにだされては仕方が無いとしか言えない。俺は一つ息を吐いてから、悟天から少し離れて座り直す。

「分かった。しないよ。でもなんでか理由くらい教えてくれたっていいだろ。」

俺がキスするのを止めたと分かると、悟天も若干肩の力が抜けたようだった。うーん、と考えるように声を出しながら、おもむろに俺のベッドから枕を持ってきて、それを抱える。そういう仕草を誘っているのか・と捕らえればその多くは間違いであることも俺は知っている。こいつは天然なんだ。そしてそれに翻弄されるのはいつだって俺である。

「トランクスくん、今日話したこと覚えてる?」

今日話したこと。復唱してから記憶を手繰る。これといって特別な内容の話はしていないはずだ。食べ物の話や流行のことや、自分たちの友人のおかしな話。いつもしているような他愛も無い話と変わったことはない。俺が肩をすくめてみせると、悟天は俺の枕に顔を埋めながら呟いた。

「虫歯の話した。」
「虫歯…?ああ、俺の。」

言われて思い出したけれど、確かにそんな話をした。今日の帰り道、悟天がクラスメイトの女子からわけてもらったという飴を差し出して「あげる。」と言ってきたので、今自分には虫歯があってそれが痛むから要らない、と断ったのだ。まさかそのことを根に持ってるのか?いや、そんな些細なことで機嫌を悪くするようなやつではないはずだ。

「それがなんだって言うんだよ。」

話の意図が読めずに聞き返すと、悟天はここからが重要と言わんばかりに俺の前にひとさし指を突き出してきた。

「虫歯はね、うつるんだよ。」
「…は?」

真剣な顔で言われた言葉に拍子抜けして間抜けな声が出た。虫歯がうつる?そんな話聞いたことがない。俺が頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、悟天は意気揚々と説明をし始めた。

「子供の頃お父さんに言われたんだ。虫歯はちゅーしたらうつるぞって言ってた。僕のお母さん厳しいからさ、昔から歯磨きはすっごく丹念にやらされてるんだ。それで、今の時点で虫歯は一本も無くて、だけど今虫歯のあるトランクスくんとキスしたらうつっちゃうでしょ。僕歯医者なんか絶対行きたくないから。だからトランクスくんの虫歯が完治するまでキスはしない。」

そこまで言い切ると、自分の意見が言えてすっきりしたらしく、悟天は満足げに枕を抱きなおしてベッドにドスンと横たわった。悟空さんのてきとうな作り話やチチさんの健康管理の厳しさもよく分かったけれど、腑に落ちない。というか落ちるはずがない。たかがキスで虫歯がうつるわけないだろう。そして何より俺が今一番苛立ったこと。それは無防備にベッドで転がって服の裾からちらちらと素肌を覗かせてる、その悟天の態度だった。ただでさえさっきから我慢してるっていうのに、その態度はない。俺はすっかり悟天のキス禁止令発言をクソ食らえと思って、ベッドに寝転んでいる悟天の上に跨った。そして悟天が驚いている隙に思いっきりキスをぶちかましてやる。長く深く、自分の下で抵抗していた悟天がくだけて力なく俺の服の裾を掴むまで。
ようやく唇を離すと、唾液の糸がだらりと滴った。荒い息をして顔を火照らせている悟天を見て、欲情する。ほら明らかに全部お前が悪い。そんな俺の心情を理解出来ていない悟天は苦しそうにしながらも眉を顰めて俺を責めるような目で見上げていた。せめて、と思って耳元で囁く。

「虫歯がキスでうつるなんて嘘に決まってるだろ。」

俺が囁くとその吐息で悟天は身体を震わせた。その様が愛しくてくつくつと笑っていると、だんだんと呼吸が落ち着いてきた悟天が反論してくる。

「嘘なわけないでしょ、なんでそんなこと、わかるのさ。」
「お前だってすぐ分かるよ。俺と今キスしたって明日虫歯になってるわけじゃないんだから。」

さらりと悟天の黒髪を撫でる。悔しそうにもう!と叫ぶのを俺は二度目のキスで遮る。そのままあとはいつものように流れ込んだ。無理矢理だとか、一方的にこういうことをすることは極力控えていた。だけど今回はどう考えてもこいつのせい。いつもいつも無意識の誘いに負けない俺なんだから、今日一回くらいは赦してほしいところだ。最終的に悟天もよくなるんだからいいんじゃないか、と自分を納得させつつも、意識の片隅で情事の後の言い訳を考える俺はやっぱり翻弄されているな、と思った。

数日後、悟天から電話がかかってきた。結局あの日悟天はうちに泊まって、次の日の朝に普通に別れたものの、どことなく悟天が俺を見る目が恨みがましかったのを思い出す。なんとなく嫌な予感がした。そして受話器の向こうから聞こえてきた言葉はやはり良いものではなかった。

「トランクスくん慰謝料払ってくださいな。」
「えーと…、腰か?」
「違う!虫歯が出来たんだよ!絶っっ対トランクスくんのせいだからね。」

まさか、としか言いようが無かった。そんなタイミングで。しかし今までずっと食後に熱心に歯を磨いてから眠っていたという悟天が、あの日飴を大量に噛み砕いた後に歯磨きをせずに眠りについたということを思い出して、俺は頭が痛くなった。思わずてのひらで顔を覆っていると、容赦なく言葉が飛び込んでくる。

「本当だよ。とにかく一緒に歯医者行ってもらうから。それから、」
「まだなにか?」

「トランクスくんの歯が全部綺麗に治るまで、今度こそ一切キスは禁止だから。」

歯医者通い頑張ろうね!そんな言葉で締めくくられた電話は初めてで、それと同じくらいこんなにダメージの大きな電話も初めてだった。
作品名:いや 作家名:サキ