ホリディ
「良い天気だなぁ、今日は。」
「はい。」
それまで静かに呼吸だけをしていた悟飯さんは、一言そう言った。暑くも寒くも無い、ちょうどいい温度の部屋で寝転びながらする会話は、夢の中のように思える。
「することがないな。生きているって、こんな風だったかな。」
何気なく口にした単語は捉え方によってはとても重い。だけど俺はいたって普通に返事を返す。もう、この人が生き返って二年になる。その月日は確かに、重苦しい緊張感をもとかしている。
「いえ、以前までは毎日修行していたのでこんな風に二人で横たわっていることはありませんでした。」
窓の外からはかすかに街の音も聞こえる。車の走る音。子供の声。平和の象徴。そうか、修行か、と呟くと、悟飯さんは体を起こした。俺もつられて上体を起こす。寝転んでいた時には感じられなかった、珈琲の香りに気付く。母さんが一休みしているらしい。
「動物園にでも行こうか。」
「動物園ですか。」
「トランクス、戦いが終わってから動物園行ったか?」
「行ってませんけど。」
「じゃあ、行こう。まだ二時くらいだから飛んでいけば閉園には間に合うと思う。」
しゃきっと立ち上がって悟飯さんは俺に手を差し伸べた。修行のさなかでしか繋ぐことのなかったてのひらは、温かくて大きかった。同時に、この人は自分のことをずっと弟のように可愛がるのだろうと思った。そして同じように、自分の中でもまた、悟飯さんはずっと前を歩いている。
「動物、いますかね。」
「いるさ、きっと。」
「起きてるでしょうか。」
「それは分からない。」
靴をはきながらそんな会話をする。動物園に行ってきます、と母さんに伝えると、少しだけ笑われた。そして、それは幸せそうな笑みで「いってらっしゃい。」と言われた。外に出るとやはり良い天気だった。青空に飛び上がる悟飯さんの背中は楽しげに見えた。俺も少し笑って、この気持ちの良い午後に、動物が活発に動き回っていることを期待して飛び立った。