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ユア・ソング・リフレイン

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呼び鈴が鳴ったので玄関の扉を開けると、トランクスが立っていた。なんだかとても懐かしい顔に思えた。久し振りに見たから、という理由だけだけではない。珍しい事に、伸びた髪を結っているのだ。その姿に既視感を覚える。

「悟飯さん、こんにちは、悟天いますか?」

そう訊ねられて、はっとする。慌てて、リビングで本を読んでいた悟天を呼ぶ。悟天はこちらへ向かっているというトランクスを待つ間、僕の家で時間潰しをしていた。トランクスが来たことを告げると、やっと来た!と言いながら小走りで本を片付けに行く。

「トランクス、髪伸ばしたのかい?」

暑そうに手でタンクトップをはためかせていた目の前の青年に尋ねれば、その瞳はこちらを向く。青色の目も、似ていると、そう思った。思ってから、そんなことを考えている自分に気付いてまた驚く。トランクスは一つに束ねた髪を指先ではじいて肩をすくめてみせた。

「はい。ていうか、放っておいたら伸びちゃって。ママが切りたがってるから明日にはもう短くなってるかも。」

そんな会話をしていると、悟天が僕の後ろをすり抜けて外へ飛び出した。もう十七になるというのに、トランクスと比べてまだまだ落ち着きがない。友人に会うなり、「ねー今日こそ海行こうよ、海。」と足踏みをし始める。

「いやだ。なんであんな人が多いところにわざわざ行くんだよ。」
「だったら人がいないところまで飛んでいけば良いじゃん。」
「暑いからそんな遠くまで行くのはパス。一人で行け。」
「えー!トランクスくんのケチ!」

玄関でそんな立ち話をしている姿を見ると、二人がまだ幼かった頃を思い出す。微笑ましさが湧き上がって、少し笑ってしまう。僕が笑った事で、トランクスは思い出したように挨拶をして、二人はそのまま飛び立った。結局海へ行くのかどうかを話し合いながら行ってしまったので、僕にはその後の二人の行き先は分からなかった。

扉を閉めて中へ戻り、自分の書斎にあるデスクの引き出しを開ける。いくつかの書類の間には、ブルマさんから譲ってもらった一枚の写真があった。そこに写っているのもまた、髪の伸びたトランクスの姿。けれど同一人物ではない。正式には、同一人物であるけれど、生きている時代が違う。彼を見ると、自分が幼い頃、戦いに巻き込まれて過酷な時を過ごした記憶が蘇る。
本当は忘れてしまいたい気持ちも強かった。辛い事も悲しい事もあまりにありすぎた。だけどセルゲームの後にブルマさんが撮影したという、この写真を見ると思い出すのだ。確かに自分と共に戦った仲間がいたこと、お父さんの力強さ、そして未来から来た一人の青年。

写真の中に写るトランクスの世界では、僕のほうが年上で、しかも彼の師匠に当たるというのだから不思議だった。彼は話で聞くだけでも、信じられないほどに荒んだ世界を生きていた。それだけではなく、わざわざ過去までやってきて、この時代の未来を守るために戦った。すごい人だと思った。あの時、僕は必死になりながらも心のどこかで彼を尊敬していた。そして、自分もそんな人間になりたい。そう思った。

学者になって幾年か過ぎて、僕は今、人の役に立てているのだろうか。そして、あちらの時代のトランクスは、元気にしているのだろうか。なんとなくだけれど、彼のことだから平和になった世界でも人を助けたりしているのだろうと思う。ただ一つ、幸せであってほしい。もう知ることの出来ない彼の未来を、そう強く願った。平和な世界で育ってきたトランクスと、本来なら生まれることさえ出来なかった悟天。そんな二人の穏やかな笑みを見ると、風に揺れたあの紫の髪を思い出した。彼の守ったものは確かにここに息づいている。それが嬉しくて、少し泣きたいような気持ちだった。

写真を見ていると、リビングの方からパンが自分を呼ぶ声が聞こえた。写真を大切に引き出しの中へと仕舞い込み、深呼吸をして、一歩を踏み出した。


( あなたの守った世界で、僕は今日を生きている。 )
作品名:ユア・ソング・リフレイン 作家名:サキ