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スローダンス

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悟飯さんと一緒にじゃが芋の皮を剥いている。母さんに頼まれたのだ。あんたたち、時間あるでしょ?ちょっとこれ剥いておいて。そう言って、テーブルに乗せられた山ほどのじゃが芋が入った篭を指差した。どうしたのそれ、とおれと悟飯さんがそのようなことを訊ねると、母さんは一度くるりと肩をまわした。おれはその仕草を見て、母さんが以前、毎日仕事すると結構こるのよね・と言っていたことを思い出していた。そして母さんは、おれたちおよび悟飯さん目線で言った。「チチさんからいただいたの。」

おれたちは隣同士で椅子に腰を下ろして無心で芋を剥き続けた。慣れない手で包丁を使うのは大変だった。芋が欠けたり、残った芽を取り忘れそうになったりした。自分が剥いたいびつな形の芋を見て少し動揺したけれど、隣を見ると、悟飯さんの剥いたもっといびつな芋があったので安心した。
もくもくと芋を剥いていると不思議な気分になった。まるで平和なんじゃないかと思った。こんな風にして一日は終わって、明日もまた母さんに頼まれて芋を剥いて、明後日もまた剥いて。そんなに皮を剥く必要のある大量の芋がもう存在しないことも、包丁を向けるべき対象が本当は違うという狂った世界のことも忘れてしまいそうだった。ぼんやりしていると、指先に痛みが走る。うっかり包丁の刃で指を傷つけてしまったらしい。あーあ、と呟くと、隣に座っていた悟飯さんが驚いた顔をした。

「怪我してるじゃないか。」
「うん。」
「手当てしないと。」

そう言って悟飯さんは剥きかけの芋を置いて、おれの手を取った。そしてその手を引いて流しへ連れて行き、水洗いした。おれはてっきり悟飯さんがその指を彼のくちもとへ持っていくのかと期待したので、少しだけ残念だった。悟飯さんはおれを再び椅子に座らせて、きょろきょろと室内を見渡し始めた。

「絆創膏なら向こうの棚の引き出しだよ。」

おれがそう言っても悟飯さんはその棚がどれだか分からずに室内を歩き続けた。もどかしくなったのでおれがさっさと取り出して、悟飯さんに渡す。ありがとう、と言われ、また椅子に座らされた。馴れた手つきで悟飯さんは傷の処置をする。慣れてるね、と言うと、嫌でも怪我をするから、と笑っていた。おれは笑わなかった。

「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」

「あの、」

傷の手当が終わると、おれは悟飯さんに言いかけた。このじゃが芋、チチさんがくれたんだよね。会いたい?会って、ありがとうって言いたい?行ったほうがいいと思うよ。悟飯さんは黙って笑ったままおれの言葉を持っている。

「今日の夕飯はカレーだと思うんだけど。」

本当の言いたいことを、おれは言えなかった。口にしたら目の前の笑顔が消えてしまうことが、なんとなく分かったのだ。そして悟飯さんは「どうかな、シチューかもしれないよ。」と、返してきた。そして、そのためにもまずは皮を剥かないとね、とまた、笑った。もう一度だけ「あの、」と言いかけて、なんでもない、とおれは口ごもる。目の前の笑う人はきっと全て分かっている。それなのに、おれは自分のいちいち口にしなくては生きていけない幼さがとても嫌だと思った。
芋はどんどん剥かれていく。目の前の篭の隣に置いた大きな笊に、白い塊が積み重なっていく。時折指先の傷がちりりと痛んだけれど、悟飯さんの痛みを思うとそれも薄らぐような気がした。いつか悟飯さんも指先を切ってしまった時に、痛い痛い痛くて死んでしまうだなんて喚くくらいに、痛みと疎遠になれば良いと思った。彼は意外と不器用なようだから、そのうち指中が絆創膏だらけになるに違いない。そしたらおれが手当てをしてあげよう。そんな日がやってくるまで、とりあえずおれたちは生きる。そのために今は、必死で芋を剥き続けるのだった。
作品名:スローダンス 作家名:サキ